第四十七話 姫様やらかしたよ!第二弾
エリー様の言葉にピシッと固まるお姫様。
それを笑顔で見つめるエリー様。
そしてそれを見守る私たち。
その沈黙を強引に破ったのはやはり隣国のお姫様だった。
「なんで………どうして………っく! エイドリアン様! 私の目を見て下さい! さあ、私の為にその姿を止めてください! 」
お姫様の言葉にエリー様は笑顔で毒を吐いた。
「何故、私があなたの為にこの姿を止める必要があるのかしら? いくら隣国の王族とはいえあまりにも失礼ではないのかしら? そもそもこの姿はいつもの事よ。それで、目を見れば良かったのかしら? さっきからしっかり目を合わせているわよ、これ以上どうすれば良いのかしら。エスコートを頼まれたからこうしているけど………必要ないのではないかしら? 」
うん、笑顔だけどとっても怒ってる。
だって、髪に着けているピンクに染まったリボンはエリー様の目にも映っているもの。
自分に魅了をかけられているのが目に見えている………そりゃ怒るさ。
「おかしい………どうして私の言うことを聞いてくれないの? 私の力が効いていない………そんなの、そんなこと認めない! 」
お姫様の様子を見ていた隣国の使者達もようやく何かおかしいと気付いたらしい。
あの人たちが魅了されているのかどうかはわからないけど、お姫様を止める気はあるようだ。
「姫様、マリーナ姫様、どうか落ち着いて下さい」
「何よ! 私は落ち着いているわ。………ちょっと、そこのあなた、そう、あなたよ」
姫様が声をかけたのは近くにいたアンガス辺境伯家のライガ様だった。
そう、あの握手会一番手だったビビ様のお兄さんだ。
「私でしょうか? 」
「そうよ、あなたよ。さあ、私の目をみて………どう? 」
ライガ様が姫様の目をジッと見ている。
そして不思議そうに首を傾げた。
「えっと、目を見ましたが………どう? と言われましても、何かありましたか? 」
「はあ?! ちょっと! なんで………なんで私に忠誠を誓わないのよ………」
うむ、バッチリお守りの効果は出ているらしい。
姫様は近くにいた他の人にも同じように目を見るように言っていたが、誰一人姫様に靡く人はいなかった。
皆さましっかりお守りを持参しているようね。
姫様の様子に自国の者だけではなく、隣国の方々も困惑している。
さすがにこれ以上はまずいと思ったのか陛下が近くの護衛に何か指示を与えた。
すると夜会の警備についていた騎士達がエリー様と姫様の近くに行き、何処かへ案内するような素振りを見せた。
だけど、姫様がまた何か言って抵抗している。
「もう、なんなのよ! この私がせっかく来てあげたのにこんな仕打ち………。絶対に許さない。………そうよ、私は悪くないわ、悪いのは私の言うことを聞いてくれないこの国の人達よ! 」
おお〜、これぞ『ザ・バカ王族』という典型的な姫様だ。
いや〜、久しぶりに見たよこのレベルの人。
前世の王族では結構いたけど、この国の王族の方々は良い人達だ。
さて、魅了を封じられている姫様はこの後どうするんだろう?
「何よ、それ以上私に近付かないでちょうだい! 」
騎士達はそっとエリー様を姫様から遠ざけた。
そして姫様を取り囲み、場所を移そうとしたところ
「近付くなと言っているでしょう! だから野蛮な獣人なんて嫌なのよ! ちょっとカッコイイから私の側に置いてあげようとしたのに。………もういいわ。我が国の力を見せてあげる。とりあえずそこの邪魔な者達は消えてちょうだい! 」
そう言うと姫様が騎士達の足元に何かを投げつけた。
すると足元に魔法陣が展開。
あれは………
『モケ、アレは転移の魔法陣モケね〜。………主! アレ、魔獣のいっぱいいる森に繋がっているモケよ。お宝いっぱいモケ〜。行っちゃうモケ? ヤっちゃうモケ? 』
なんかモケゾウのテンションが爆上がりなんですけど。
やっぱり最近運動してないから運動不足なのかしら?
そうこうしているうちに騎士達が魔法陣に吸い込まれていく、アレ、マズくない?
『ねえ、モケゾウ、あの魔法陣の行く先の魔獣の強さとかわかる? 』
『モケ? モケ〜、僕とか主なら楽勝モケね。ただ、あの騎士達には厳しいと思うモケ』
やっぱりそうか。
しかも魔法陣はなんだか拡がろうとしている。
このままだと他の人達にも被害が出てしまう。
もう、なんて迷惑な姫様だ、やっぱり王族は鬼門だ。
………しょうがない、目立つのが嫌だとか言っている場合ではない。
「陛下、あの魔法陣魔獣のいる森に繋がっているそうで、騎士様達が危ないようです。しかもあの魔法陣まだ拡がろうとしています。モケゾウ達なら止められるので止めて、騎士様達を迎えに行きます」
私は陛下にそれだけ伝えるとダッシュした。
魔法陣に近付き、魔法陣をよく見る。
おや? これは前世私を嵌めようとしたあの魔法陣によく似ている。
なら、止めるのは簡単だ。
魔法陣の一部を書き換える。
収束と消滅、私はそれを魔法陣に仕込み近くにいたエリー様に声をかけた。
「今から騎士様達を迎えに行ってきます。モケゾウ達がいるから大丈夫ですよ。それからこの魔法陣は起動したままだと危ないので私が入った後は消滅するようにしています。では、行ってきます! 」
私はそう言うと姿を現したモケゾウ達と魔法陣に飛び込んだ。
その後すぐに魔法陣は消滅、陛下、王妃様、殿下、エリー様が阿鼻叫喚、他の貴族も大混乱していることなんて知らずにモケゾウ達と一緒に森へと出撃したのだった。




