第四十四話 握手会………本当に頑張ったよ!
はい、一組目から濃かった握手会です。
とりあえず数が数だから、濃かったからと言って止まるわけにはいかないのです。
宰相様が次々と高位貴族の方の列をさばいておいでなのだから、私はそれを受け入れ速やかに列を進ませなければ………帰れないのですよ〜。
二組目、三組目と進んでいく中、一組目のように知っている人には会っていないものの、高位貴族の方々の印象が変わるイベントが目白押しナンですが。
「ありがたや〜、ありがたや〜」
会った早々拝み始める御老人。
「好きです! 僕と結婚して下さい! 」
会った早々プロポーズしてくる推定三歳児。
「大好きです! 結婚して下さい! 」
会った早々プロポーズしてくる推定四十歳。
速攻で殿下とエリー様に捕獲され、荒ぶる宰相様に怒られ、近くにいた警備の騎士に乱暴に引き渡されていく………高位貴族とは? と考えさせられる出来事の連続。
そんな中でもフローラちゃんは頑張った。
自分で言うのも何だけど、頑張ったよ。
ちゃんと笑顔で握手したし(ロリコンは別)、お守りも忘れずに渡している。
中には明らかに殿下のことを意識していて、私に悪感情を持っていそうな年頃のお嬢様もいたけど、負けずに笑顔で握手したら
「ちょ、ちょっとカワイイからって………あ、も、もうちょっと握手してもよろしくってよ」
カワイイ、ツンデレお嬢様に変化した。
お守りも渡すと
「……… ありがとう。………こ、困ったことがあったら言いなさい! このお守り分ぐらいは助けてあげるわ! 」
ツンデレお嬢様、カワイイですね〜。
そんなこんなで何組終わったかな?
まだまだ列は途切れません。
………ん? なんか見たことあるような人が
「あ、あの! 」
うん? 誰だっけ? 見たことはあるはずなんだけど………
私が思い出せずにいるとエリー様が助け船を出してくれた。
「あら、今日は招待客として来ているのね、バール? 」
「はい、魔術師長」
エリー様を魔術師長と呼ぶ赤髪の子………あ! この間エリー様に頼まれてお灸を据えに行った上級精霊の契約者の子だ。
確か、この子の契約精霊が私とモケゾウに土下座している間に気を失ってしまっていたような。
あの後のことは聞いていないからわからないけどね。
「あの、ベルンハルト嬢、そ、その、こ、この間は…………俺、いや、私のせいで迷惑をかけて申し訳なかった! 」
そう言うと勢いよく頭を下げた赤髪君。
おぅ、この間とは随分反応が違うね、反省したのかな。
なんて、私は軽く思っていたのだが、どうやら周りは違ったようだ。
「え? あれってタンバル公爵家のバール様じゃない? 」
「嘘? あのプライドの塊のバール様が謝るなんて…………」
「確か、学生時代に精霊と契約をしたエリートで、その爵位もあって誰も何も言えないって」
「何であのバール様が頭を下げているんだ?」
「高位貴族を恐れない希少な下位貴族のお嬢さんと言うだけではないと言うことか」
「噂で聞いて、デマだと思っていたがバール様の精霊がベルンハルト嬢の精霊に秒で負けたとか」
周りがめっちゃザワザワしている〜。
てか、赤髪君ってば公爵家の人だったんだ………うむ、それなら高位貴族の中でも高位という説明が納得出来るね。
んで、頭を下げたままの赤髪君をどうしたら良いのかな?
「えーっと、とりあえず頭を上げて下さい。この間のことはもう済んだことですし、私は気にしていませんよ」
私の言葉に頭を上げる赤髪君。
ただ、何故か浮かない表情をしている。
「…………気にしてないか。そうだよな、俺の実力なんてまだまだだったんだよな………」
そう言って一層暗くなる赤髪君。
そこに何故かトドメを刺しに行った人が
「相手の実力も分からずケンカを売るなんて実力がない証拠じゃないか? とりあえず後ろが詰まっているんだから空気を読んで早く終わらせたら良いのでは? 」
殿下がトドメを刺しに行きました。
赤髪君はこの間の様子だったら絶対にキレると思ったけど、本当に反省したのか思わず口にしそうだった言葉をグッと飲み込んで、私と握手を軽くし、一礼してお守りを受け取りその場を後にした。
ふむ、もしかしたら今後急成長するかもだね。
『モケ〜、あの赤髪の精霊はたまに僕たちで指導しているモケよ〜。用事があってお城に行く時に見つけたらちょっとさらってモケ〜』
いろいろツッコミたいけど、そもそもなんでモケゾウがお城に用事があって行くのか?
んで、さらって指導って、しかも僕たちって言った!
詳しく聞くと眠れなくなりそうなのであえてスルーしておこうかな。
でも、とりあえず………
「えっと、モケゾウさん、ほどほどに………ね? 」
なんとなくモケゾウが拳をシュシュっとした気がした。
さて、気を取り直して列を捌きましょうか。
その後も、プロポーズ、養子縁組、果ては聖女への勧誘? などいろいろあったけど、最強の布陣による防御でそれらを跳ね除け握手会は幕を閉じた。
なんとかお守りも配り終えたから、あとは隣国の使者の歓迎会を待つばかりだ。
私は家で大人しく報告を待てば良い。
…………え? 家にいて良いんだよね?




