第三十六話 噂話を聞いたよ!
「今度、隣国から王族が来るらしい」
夕飯時、父がそんなことを呟いた。
「私もお茶会で聞きましたわ。なんでも姫様が二人来るとか」
と、母が言う。
下位貴族のお茶会でも噂になるぐらいだから、相当情報が流れているのね。
「ああ、噂でしかないが婚約者探しだとか………」
ほほう、婚約者探し………って、姫様の婚約者ならお相手はこちらも王族が妥当。
姫様の年齢はわからないけど、きっと探しに来るぐらいだから私よりは上かな?
………アレ? もしかして私ってばお邪魔虫では?
どう考えたって子爵令嬢が婚約者って、自国内ならなんとかなっても他国相手では弱くない?
「………と言う話なんだけど、私ってば殿下のお荷物だよね? 」
自室に戻ってから、モケゾウたちに隣国から王族が来ることを話した。
『モケ〜、主がお荷物なんてあるわけないモケ〜。むしろピカピカの宝物だモケ〜』
『そうであります! 主様は最高の主様であります! 』
『カパ〜』
『うむ、主殿を嫁にもらえるなんてなんて羨ましい』
モケゾウにフラン、そしていつの間にか増えていたカッパとマサムネにも慰められてしまった。
でも、よく考えたら婚約と言っても仮だし、むしろ私が大きくなったら婚約は解消されるわけだ。
なら、もし今回来る姫様を殿下が気に入ったら、私との婚約の理由を伝えてもらえれば良いのでは?
『………なんか主様が変なこと考えているような気がするであります』
『モケ〜、フランなかなか鋭いモケね〜。たぶん主は今、存分にスキル「鈍感」を発揮しているモケ〜』
なんかモケゾウとフランが微妙な目で見てくる………。
そういえば………この間王妃様とミランダちゃんとお茶会した時に誘われていた離宮で会うという話、近々予定は空いているかどうか問う手紙をいただいていたのだった。
父と母に聞いてみたところ、モケゾウたち上級精霊もいるし離宮でお茶会ということで、王家の方々の気遣いを感じ、行っておいでと快く送り出してくれそうだ。
なら、その時にこの疑問も聞いてみようかな?
私だって別に人の恋路を邪魔してまで守って欲しいわけではないし、なんならある意味、最強の守護神的存在が近くにいるから今も婚約なくなっても良いのでは? と思っている。
ーーー数日後
今日は王妃様とミランダちゃんとのお茶会の日だ。
私一人、まあ、モケゾウたちはついて来るけど父と母は来ないので王妃様がお迎えを寄越してくれた。
「初めまして、ベルンハルト子爵様。私は騎士団三番隊隊長のジョン・ルーベルトと申します。本日は私達三番隊でお嬢様の護衛をつとめさせていただきます。必ずお護り致しますのでご安心下さい! 」
迎えに来てくれたのは騎士団の方たちだった。
見た感じ、ここに来ている三番隊の人たちはみんな獣人ではないようだ。
「わざわざ騎士団の方々が出迎えに来てくれるとは………娘の為にありがとうございます。王妃様にも感謝の言葉を伝えて下さい。さあ、フローラ、気をつけて行って来るんだよ」
「はい、お父様! 行って参ります! 」
私は送り出してくれる父と母に元気に手を振った。
「では、本日はよろしくお願いいたします、ルーベルト様、騎士団の皆様方。私はフローラ・ベルンハルトと申します」
とりあえず騎士団の方たちに挨拶、やっぱり挨拶は大事だよね。
「これはご丁寧にありがとうございます。では、出発いたしますので馬車へお乗り下さい」
隊長さんに案内されて私は馬車に乗り込んだ。
さすが王妃様が手配してくれた馬車、中も落ち着きのある品の良い作りになっている。
動きもスムーズ、振動もない。
離宮までは三十分ぐらい、馬車の周りには騎士団の人たちが警戒しながら付き従ってくれている、もちろん馬に乗ってね。
馬車の中には私しか乗っていないので、モケゾウたちが姿を現した。
「王妃様、良い馬車と護衛まで準備してくれたのね。やっぱり、お土産準備しておいて正解だったね」
『モケ〜、お土産って主が作っていたヤツモケね』
『アレって主様の魔力がいっぱい練り込まれているヤツでありますね』
『カパ〜』
『確かいろいろ機能付与していたような………ところでカッパはなんでまた「カパ」しか言わんのだ? 』
マサムネがカッパのほっぺをビミョーーンと伸ばしながら聞いている。
あら、思った以上に伸びるわね。
モケゾウたちとわちゃわちゃしているうちに目的地へとあっという間についたようだ、ちなみに喋っていたけどモケゾウが防音の魔法をかけていたようで外には聞こえていない。
「ベルンハルト様お待たせいたしました、離宮に到着いたしました」
馬車の扉を開いてもらい外へ出た。
するとすぐに私を呼ぶ声が
「フローラちゃーーーーん! 」
離れた場所からミランダちゃんが私を呼びながら走り寄ってきた。
さすが黒豹、あっという間に私の目の前に来ると私に抱きついてきた。
「ミランダ様、お会いできて嬉しいです」
まだ騎士団の人たちもいるからミランダちゃんではなく、ミランダ様と呼ぶ。
ミランダちゃんはちょっと不満そうだけど。
「あちらでお母様も待っているの、行きましょう! 」
「はい、参りましょう! では、ルーベルト様、騎士団の皆様ありがとうございました」
私は騎士団の方たちにお礼をしてから、ミランダちゃんの案内で離宮内へと入った。
ーーー時は遡ってその日の朝の王城にて
「ミランダ、何か今日は妙に朝から機嫌が良いな」
長兄リースが妹のミランダに問いかけた。
「………お兄様の気のせいだと思いますよ。私はいつも通りですわ」
「そうか………」
絶対いつもと違うと、リースの野生のカンが訴えかけてくるのだった。




