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第四話 泣いちゃったよ!

お姫様抱っこ………なんて甘美な響き。

前世ではもちろんされたことはない………したことはあるけど。

それをこの歳で、それも殿下からされるなんて!

良い思い出になります、有り難いです〜と内心拝んでおきました。


「リース………お前まで………」


陛下が疲れたように殿下に声をかけた。

リース殿下は陛下の声など歯牙にも掛けず、お姫様抱っこしながら私のことをまたガン見してきた。

おお!睨み合い第二戦ですね?!

もちろん私は負けませんよ!

というわけで私は殿下に負けずに殿下をジッと見つめ続けた。



………………………………フイッ


よぅし! また私の勝ちですね!

殿下は私の眼力にまたしても視線を逸らした。

よっぽど悔しかったのだろう、顔が真っ赤になっているし、私を抱き上げる手も震えている。


「兄上! ズルイです! 」


そう言うとリース殿下の弟であるユアン殿下がこちらに突撃してきた。

ユアン殿下は陛下と同じ獅子の獣人のようで、体格は八歳にしてリース殿下と同じくらい。

ちなみにリース殿下は王妃様と同じ黒豹である。

そんなリース殿下は私をお姫様抱っこしながら、ユアン殿下を避けるために後方へヒョイっと飛び退いた。

いくら私が小さいとはいえ、なかなか機敏な動きだ、やりますね殿下!

その後もユアン殿下が近づくたびにひょいひょい避けるリース殿下…………これ、いつまで続くの?

私が諦めの表情を浮かべていると


「で、殿下方!」


この声は………父?!

父の方を見れば、父が震えながらも必死の表情で声を発している。


「む、娘は、今日初めて他の貴族に接したのです! ふ、不敬なこととは存じておりますが、ど、ど、どうか娘をおはなしください! この通りで御座います! 」


父が………父が、陛下や殿下に向けて震えて、恐くて堪らないはずなのに、必死に私のことを放して欲しいと願い出ている。

あ〜〜、私は何お姫様抱っこだなんて浮かれていたんだろう。

そうだよ、父の様子を見ていればどんなに父が心配しているかだなんてわかるはずなのに………何が守るだ、全然守れてないよ、心を傷つけているじゃないか………馬鹿か私は。

これは、今世の年齢に精神が引きずられている………じゃなきゃ、こんなことで私が…………泣くわけない。


「うっ、うっ、ひっく………」


ダメだ。

涙と嗚咽が止まらない。

私の今の状態に気付いたリース殿下は慌てて私を下に下ろしてくれた。

周りでユアン殿下も慌てふためいている気配も感じる。

陛下と王妃様、姫様もどうして良いのか分からずみんな混乱中だ。

そんな中、私を優しく抱きしめてくれる手があった。




「お、お父様………う、うう、ご、ごめん……なさい」


父が私を抱きしめ、優しく頭を撫でてくれる。


「ああ、私の可愛いフローラ、君は何も悪くないよ。助けてあげられなくて本当にすまなかった。ほら、もうそんなに泣かないでおくれ。これで涙を拭いて」


そう言うと父はハンカチで涙を拭いてくれた。

私は自分の不甲斐なさになかなか涙を止めることができない。

そんな中誰か別の人物が声をあげた。



「陛下方…………一体何をしてくれているのですか? 」


おぅ、今一瞬で涙が止まった。

それぐらい、恐ろしく冷たいブリザードのような声だったから。

私は父に抱きしめられながらもそっと脇から、声のした方へ顔を出してみた。

そこにいたのは、恐ろしく目つきの鋭い、狼の獣人だった。

前世でもなかなかお目にかかれないレベルの覇気の持ち主だ。

ヤバイ、強敵出現。

前世だったらまあ………勝てたけど、今の私ではまだ難しい。

んで、そんな強敵はどうやら陛下方を敵認定したらしい。


「ま、待て! リューク、そんな殺気を向けてくるな! 」


「今のこの状態で待てるわけないでしょう? 本当に何をしているのですか? 貴方達のせいで奇跡の令嬢を失うわけにはいかないのですよ! 今頃見守っていた方達も荒れているでしょうね………本当に本能で動くのはやめろとあれほどいつも言っているだろうが!! 」


最後の方は口調がアレだった。

めっちゃブチ切れてる。


「そ、それは、申し訳ないと思っている………ちょっとテンションが上がってだな…………」


陛下がしょんぼりしちゃってるよ。

他のご家族もみんな尻尾が力なく下に落ちている。


「はあ〜〜、申し訳ないじゃないでしょうが! しかもこんなに泣かせて………おや、泣き止んでますね」


そう言うとその狼獣人は私の方へと近づいて………は来なかった。

離れた場所から、さっきの殺気が幻だったかのような空気で私に話しかけてきたのだ。


「私は宰相のリューク・グランドです。ベルンハルト子爵、フローラ嬢、陛下達がご迷惑をおかけして大変申し訳ございませんでした。本来であれば初めてのお披露目の場で会話をして、その上触れるなど、許されることではありません。なのに、子爵に多大な精神的負担を、御令嬢を最終的に泣かすなど言語道断! あ、いや、お二人に怒っているわけではないですよ。ただ、私は高位貴族を代表して陛下達にお話しさせていただいているだけですから」


私と父に話しかける時は少し微笑みを浮かべるような顔だったが、陛下達へは先程の極寒ブリザードの目つき暗殺者仕様だった。

え、この人本当に宰相ですか? 確実にその筋の人ですよね?


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― 新着の感想 ―
[良い点] 可愛すぎて、面白すぎるお話で、素敵です!
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