第三十四話 これ、どうすればいいの!
ピリピリとしたこのお茶会の中で、何やら気になる視線がさっきから私に突き刺さっているのですが?
気になる視線のヌシを探せば、それはある令嬢のものだった。
たぶん、熊の獣人。
殿下とリーダー格の令嬢がやりあっているのをまるっきり無視して私を見つめてくる。
この熱い視線………前にも浴びたことがあるような?
私がその令嬢と視線を合わせてみたら、彼女がブルブル震え出した。
え? それって怖いってことですか?
私は怖くないですよ〜、怖いのはここで威嚇しまくっている殿下………いや、うん、私が悪いのか。
そんなことを考えていたら突然
ダンッ!!
と、大きな音とともに叫び声が
「も、もう我慢できません!! 」
大きな音は熊の獣人の令嬢がテーブルを拳で叩いた音。
そして叫び声はその令嬢のもので………。
一瞬にして視線が彼女に集まった。
その彼女は立ち上がりリーダー格の令嬢に近づくと………勢いよく頭を下げた。
「大変申し訳ございません、ナターシャ様! 私はもう我慢出来ません。これ以上自分の気持ちを抑えるのは無理です! なので最初に謝罪させていただきます! 申し訳ございません」
熊の獣人の令嬢はそう言って深く頭を下げた後、スタスタと私の方へと歩いてきた。
そして私の前に来ると
「殿下の御前で申し訳ありません…………しかし、もうこの気持ちを偽ることは出来ません!………ベルンハルト様! どうか………どうか一度でいいので……………抱きしめさせて下さい!! 」
お、おおぅ。
女性にしては大柄な熊獣人の令嬢が、私の目の前で深く頭を下げている。
これは、一体どうなっているんだ?
確か、殿下とリーダー格の………えーっとナターシャ様? がシリアスモードだったはずなんだけど。
「え、あ、あの、ひとまず頭を上げて下さい」
「では、抱きしめることをお許しいただけるのですか?! 」
な、何故そうなる。
このタイミングでこの話題って、自由すぎるでしょう。
ナターシャ様だって未だにポカーンとした顔しているよ。
でも、そんな中、殿下がいち早く復活した。
「君は確か………アンガス辺境伯令嬢だね? 君がフローラ嬢に惹かれる気持ちは痛いほどよくわかる。……だが、急に抱きしめさせてくれというのは乱暴ではないか? 」
殿下の言葉にアンガス辺境伯の令嬢は
「………確かに不躾な事だということは承知しております。しかし、お言葉ですが、殿下も初対面の時にいろいろしておりましたよね? 私は残念なことにベルンハルト様が王族の方々に初めて会われた、あのお茶会には不参加でしたが両親から聞いております。もちろんベルンハルト様のこともその時お聞きして、是非ともお会いしたいと常々思っておりました」
アンガス辺境伯令嬢がキラキラした目で私を見てくる。
「本来であればナターシャ様の為にも、心苦しくはありますがベルンハルト様にいろいろお話ししなければいけないのですが………やはりこんなに近くでベルンハルト様を見てしまっては、もう自分の気持ちを誤魔化すことなど無理でした。…………なんで…………なんでこんなに可愛いんですかーーーー!! 」
おぅ! 熊が吼えた!
すると、他の令嬢方も突然立ち上がり
「ず、ズルイですわーーー!! 私だって物凄く我慢して、我慢して、我慢して座っていたのに………私だって直接ベルンハルト様を見たら…………もう、我慢なんて無理ですわーーーーー!! 」
泣きながら一人の令嬢が叫べば
「お会いするまでは絶対に文句の一つでもと思っておりましたが…………な、なんなんですか?!その可愛さは! そんなの抱きしめたいに決まっているではないですか!! 」
物凄くお淑やかだと思っていたご令嬢も、なんだか身をくねらせている。
…………なにこの惨状。
ますます場が混沌としてきたところに最後にもう一つ特大のがきた。
「わ、私だって本当ならベルンハルト様を愛でたいですわ!! でも、でも、殿下をお慕いしている気持ちも捨てられないんだもの! どうしたら良いのよ? 」
そう言うとナターシャ様がテーブルに伏して泣き始めてしまった。
本当に、これは貴族のお茶会なのか?
これ、どうやって終わらせるの?
私が途方に暮れて遠くを見始めたら、モケゾウとフランがヒョイっと出てきて
『主がちょっと微笑んで、軽く握手でもしたらたぶん円満解散出来るモケよ』
『そうであります!主さまの魅力にみんなメロメロのこの状態であれば、チョチョイのチョイで勝てるでありますよ』
二人ともそんな簡単に言ってくれるけど、この惨状で本当にどうにかなるの?
………まあ、結果どうにかなったけども。
「わ、私、しばらくの間手は洗いませんわ! 」
え? いや、うん、手は洗おうか。
「こんな近くでその微笑みを見られるなんて………親族中に自慢しまくりですわ! 」
いや、そんな自慢する程のことではないはずですよ。
お茶会に参加された令嬢方は満面の笑みで帰って行かれた。
そんな中残ったのは主催者のナターシャ様とアンガス辺境伯令嬢、そして殿下と私。
さて、この後はどうしようか。




