第三十三話 ドキドキのお茶会だよ!
「え? 侯爵家の方からお茶会のお誘いですか? 」
私が部屋でモケゾウと精霊の姿のフランと読書をしていたら父がやって来てそんなことを言った。
侯爵家って上位貴族じゃん。
普通に考えて無理な話だ。
もちろんそれは父も思っているようで、顔色が悪い。
「ああ、きっとフローラが殿下の婚約者だという話が漏れ始めたからだと思う。王家からも少しずつ情報を流して、正式な場で改めて紹介すると伺っていたからな」
ふむ、だとしたら確実にこのお茶会は愉快な会ではないな。
おおよそ、上位貴族と下位貴族との婚約が面白くないって話だろう。
仮の婚約だからいつかは解消されるだろうけど、そんなことわからないもんね。
『モケ〜、主を困らせてるモケか? 僕が行って一発やっとくモケ? 』
「ありがとう、モケゾウ。でも、やらなくて大丈夫よ」
『モケ〜、大丈夫モケか〜』
『隊長! やる時は私もやるでありますよ! 』
モケゾウとフランは本当にわかっているのか、やたらと拳を振り回している。
いや、本当にやらないよ?
二人のことはとりあえずそっとしておいて、お茶会か〜〜。
どうせ殿下に私は釣り合わないとかそんなことを言われまくる会なんだろうな〜。
どうしよう、大人しく我慢出来るかな?
こんな時普通の貴族の令嬢って耐え忍ぶものなのかな?
そもそも下位貴族のお子ちゃまが上位貴族の家で、上位貴族のお嬢様達に囲まれてお茶会ってここの常識で考えれば拷問では?
うーん、でもうちから断るのは難しいだろうから………なら私が出来ることと言えば。
「ナターシャ様、ベルンハルト子爵の令嬢は本当にいらっしゃるんでしょうか? 」
「ええ、招待状を送ったらいらっしゃるとお返事をいただいたわ」
「凄いですわね………招待されたとはいえ上位貴族のお茶会に一人で来るなんて」
「いえ、一人ではないそうよ。まだ幼いし、下位貴族とのことだから付き添いの方といらっしゃると」
「まあ、付き添いですか? 一体どなたがいらっしゃるのかしら? わざわざそのことを伝えてくるということはベルンハルト子爵夫妻ではないのかしら? 」
「ちょっと詳しくはわからないわ。もうそろそろ約束の時間だからいらっしゃると思うのだけど………」
その時ノック音が響いた。
その後入室の許可を求める執事の声が………何故か震えて聞こえる。
「はい、どうぞ入ってらっしゃって」
どうも、フローラです。
いま、侯爵家のお茶会にお邪魔しております。
ええ、あの例の胃が痛くなりそうなお茶会ですよ。
でも、私も何も対策しなかったわけではありません。
まあ、その結果、今私の目の前で顔色が悪くなっているお嬢様方と、執事の方、侍女の方など大量発生しているわけで………。
「やあ、今日は私の婚約者のフローラ嬢を招待してくれてありがとう。だが、フローラ嬢は上位貴族とのお茶会なんてもちろん初めてだからな………心配性の私が無理を言って付き添いを願い出たんだ。まあ、今日はよろしく頼むよ? 」
殿下は………とっても良い笑顔でお嬢様方を見つめた………が、目が笑ってない。
あ、あはは、なんかやり過ぎたような気がする。
今にも襲い掛かりそうな肉食獣を目の前にして皆さんガクブルだ………。
これ、どうしたら良いんだろう?
自分でやったことだけど、殿下がここまでしてくれるとは思わなかった。
私的には、殿下にお茶会のことを相談して、円満にお茶会に参加しなくてもいいような流れにしてもらおうと思っていたのだけど………何故か殿下に相談したら一緒にお茶会に行く流れに。
もちろん殿下の指示で殿下が付き添いで行くことは秘密。
「それで、今日のお茶会はどういったお茶会なんだい? 侯爵家でのお茶会に、私の大切な婚約者を除けば参加者は上位貴族のみ。上位貴族と下位貴族が一緒に参加するお茶会は珍しいよね? 」
殿下がお嬢様方に質問している。
お嬢様方はどう答えたら良いのか悩んでいるようだ。
「まあ、いいよ。じゃあ、お茶会なんだからお茶を飲みながら会話を楽しもうじゃないか。もちろん私の可愛い婚約者のフローラ嬢に質問があるから呼んだんだろう? さあ、何でも聞いてごらん」
なんだろう、さっきから殿下が私の名前を呼ぶときに大切とか可愛いとか言っているんだが。
………あ、これはアレか!
婚約者を可愛がっていることをアピールして仮の婚約とはバレないようにしているんだな。
なかなかやりますね殿下。
「あ、あの、殿下。 殿下とベルンハルト様は本当に婚約を結ばれたんですか? 」
ようやく喋った令嬢は、たぶんこの中のリーダー格。
私のことは目に入れず、真っ直ぐに殿下を見つめている。
まあ、ちょっと震えているけど。
「おや? 私に質問かい? まあ、いいよ。答えはもちろん『はい』だ。フローラ嬢は……いずれ発表されることだが、上位精霊と契約している。しかもいつのまにかその契約精霊が二体に増えているのだが。それに下位貴族だが私達上位貴族を恐れない。これはもう国宝ものだろう? 私は喜んでフローラ嬢と婚約させてもらったのだ」
「し、しかし! 下位貴族と上位貴族との婚姻は難しいのでは………。そ、それにベルンハルト様の年齢であればリース殿下よりもユアン殿下の方が………」
「年齢は関係ないよ。私がフローラ嬢を望んだんだ」
殿下が思ったよりも強い口調で反論している。
リーダーの令嬢がもう涙目だ。
これってもしかしてこっちがいじめている風になっていませんか?




