第二十九話 新しい子だよ!
私ってば、一応殿下の、仮ではあるが婚約者なんてやっているわけで………。
そうなると、どうなるかと言いますと、周りの目ってやつもあるから、勉強もしなければいけなかったりしたりします。
まあ、もともと貴族の令嬢ってやつは、私の年齢ぐらいからちょっとずつマナーやダンス、それから教養を嗜んだりする。
だから別に辛いことではないのだが、私って前世があるからある程度出来ちゃうんだよね。
そうなると、どうなるかと言いますと………こうなります。
「す、凄いです! フローラ嬢はもう高等学校の算術も解けています! 」
教養を教えてくれている家庭教師のオジさんがびっくりしちゃってます。
ああ〜、加減がわからなくてとりあえず埋めた答えが合ってたらしい。
前世で脳筋って言われていたけど、きちんと騎士学校は卒業しているからこのくらいは出来るさ。
「おお! 私の可愛いフローラは可愛いだけじゃなくとても賢いのだな! だが、一体どうやってこんなことを学んだんだい? 」
父がもっともな疑問を投げかけてきた。
そりゃそうだよね、こんな六歳の子が解ける問題じゃないもの………はあ〜、まずったなぁ。
………が、しかし、私には困った時のモケゾウ様がいる!
頼ってばかりでごめんよ、モケゾウ。
「も、モケゾウにいろいろ教えてもらってます。モケゾウは精霊として長い時を生きていますから、物知りなんです」
「そうか、さすがモケゾウ様だな。ふむ、ではフローラは何か学びたいことはないかい? この歳で勉強もマナーも出来ているのであれば無理にもっと詰め込む必要はないさ」
学びたいことか………。
前世出来なかったこと………可愛い格好を楽しみたいは、この姿になってから結構叶っている。
父も母も本当に私のことを可愛がってくれているから、私の普段着もとっても可愛らしいものが勢揃いしている状態だ。
そもそも、今の子リスの私は何を着ようが可愛い!
うーん、そうなってくると何を学ぶか………。
私がウンウン考えていると
「もし良かったら私の恩師に会ってみませんか? 」
家庭教師のオジさんがそう提案してきた。
「私の恩師はちょっと変わった人ですが、とても優秀です。今は王立図書館で館長をしながら古代語の解読作業をしているんです。先ほど簡単ではありますが古代語の問題も出させていただきましたが、大変素晴らしい訳でした。きっと今後勉強していけば素晴らしい知識を持たれるようになられるでしょう。その為にも良い師に指導していただくことをお勧めします。私ではフローラ様が満足されるような教育は、恥ずかしながら難しいと思いますので……」
変わり者の図書館館長か………。
でも、古代語の本とかちょっと興味がある。
だいたいさっき出された問題、古代語って言うほど古代語じゃなかったんだよな。
確かに古い言い回しだったけど、前世ではお年寄りとか普通に使っていたし………。
今、古代語がどの程度なのか気になる。
「あの、お父様、もし良かったら先生のおっしゃる図書館の館長様にお会いしてみたいです」
私がそう言うと父は
「そうか、フローラが興味があるのであればお願いすることにしようか。しかし、フローラ一人で行かせるわけにはいかないな………」
『僕がついているから大丈夫だモケ〜。もし心配ならお供に誰かつけるモケよ? 』
「モケゾウ様………もちろんモケゾウ様のことは信頼しております。ただ、外に出るのであれば誰か大人が見えないと変な輩が近付くかもしれません。モケゾウ様がいうお供というのはどちらの方ですか? 」
確かに、周りから見れば幼い女の子がお供も付けずに歩いていればさらってくれと言っているようなものだ。
しかも、私ってば可愛い子リスちゃんだもの。
変態ホイホイになってしまう。
『僕の部下に人間に化けるのが上手いのがいるモケ。そいつに付き合ってもらうモケよ〜』
え!? モケゾウってば部下がいるの?
しかも人間に化けるって………それってやっぱり上級の精霊では?
「モケゾウ様の部下ですか? 確かにそのような方がいれば安心ですが………人間に化けるなんて可能なんでしょうか? 」
『モケモケ〜気付いていないだろうけど、世の中人間に化けた精霊が結構紛れ込んでいるモケよ〜』
「え! そうなの? 」
『モケ〜、この国にもいるモケよ〜。別に悪さしているわけじゃないモケよ。ただ、人間の生活に憧れていたり、美味しいものが食べたいとか、中には人間に惚れちゃってっていうのもあるモケね』
意外と精霊って自由だ。
「そうでしたか………いや、初めて聞くことばかりで驚いています。しかし、それならば人間に化けることが得意というモケゾウ様の部下にお供を頼んでも大丈夫そうですね。いつもご迷惑をかけてしまいますがよろしくお願いします」
『よろしくされるモケよ〜。んじゃ、早速呼び出すモケ〜』
「どうやってその部下の子を呼ぶの? 」
私の質問にモケゾウが行動で示した。
『こうやるモケ〜。 モケモケモケ〜〜〜』
モケゾウがモケモケ言うと床に召喚陣が浮かび上がった。
そこから部下の子が出てくるのかなと思っていたら、モケゾウがその召喚陣に手を突っ込んだ。
何かを探すように手を動かしていたが、探し物が見つかったのかモケゾウが思いっきり手を召喚陣から引き抜いた。
その拍子に何かが召喚陣から飛び出してきた。
『何するですかーーー!?』
………あ、ピンクだ。
目の前にはピンクのモケゾウがいる。




