第二十六話 モテる? 女は辛いよ!
「っは! 今、一瞬意識が飛んでたわ。精霊王様って、あまりに幻の存在過ぎて理解が追いつかないけど、本当にいるのね。それから、えーっと、と、とりあえず、バールは失神しちゃっているから救護室にでも放り込んでおいてちょうだい。それからバールの精霊は…………もう、大丈夫そうだから放置! もしまた問題起こしたら、他人の力だけど、モケゾウ君に頼みます! モケゾウ君、お願い出来るかしら? 」
『モケモケ〜、別に良いモケよ〜。悪いことしたら僕の拳が唸ればいいモケね? 』
モケゾウが拳を高速でシュッシュッと打ち出している。
それを見た新人君の精霊が何回も頭を下げていた。
『ほ、本当にすんませんでしたーーー! 俺、もう、真面目にやります! 俺の主人も絶対悪いことさせません! だ、だから、どうかモケゾウ先輩呼ばないで下さいーーー!! 』
心からの雄叫びが鳴り響いた。
そんなにモケゾウが怖いか………こんなに可愛いのに。
ほら、こっちをつぶらな瞳で見てきた。
『モケ? 主も拳でお仕置きに参加するモケか? 』
う、ううん? か、可愛いよね?
言っていることは物騒だけど………。
「叔父上ーーーーーー! 」
訓練場にエリー様? を呼ぶ声が響いた。
この声は………殿下?
遠くからものすごいスピードで殿下が走ってやってきた。
「叔父上! 何故私の婚約者のフローラ嬢を魔術師の訓練場に呼び出しているんですか? まだ私の婚約者と正式な場所では公表していないのに、先に魔術師達に伝えるなんて………。これ以上フローラ嬢に惹かれる存在が増えたらどうしてくれるんですか?! 」
「落ち着きなさいな。別にフローラちゃんとモケゾウ君を見せびらかす気持ちなんてちょっとしかなかったわよ。それよりも、ここでモケゾウ君の契約主だと示したことで味方が増えるわ。ほら、周りを見てみなさい、あの魔術師達の目を」
エリー様がそんなことを言うから私も周りを見てみた。
あっれ〜? なんかみんなキラキラした目で私とモケゾウを見てくる。
正直、さっきのモケゾウと新人君の精霊とのやり取りを見られてたから、引かれていると思っていたのに。
「ほらね、みんなフローラちゃんに尊敬の眼差しを向けているわ。精霊と契約している魔術師はね、精霊に認められるのがどんなに大変でどんなに魔力が必要か知っているの。だから、フローラちゃんがどんなに幼くても、モケゾウ君のような上級精霊と契約しているうえにさっきのバールの精霊に対しての態度からその重要性も理解しているわ。だからフローラちゃんが幼かろうが、下位貴族だろうが関係なく認めてくれているの。魔術師、特に精霊持ちを味方につけるのって大変だけど、一度認められたらもう絶対に裏切らないわ。そんなことする契約主を精霊が嫌うからね」
エリー様はいろいろ考えたうえで私を今日招待してくれていたんだ。
ちょっと面倒くさいって思っててごめんなさい。
「っく………叔父上もフローラ嬢のことを考えて動いてくれていたということですか………。それは有り難いことだと思いますが、何故フローラ嬢が来ることを教えてくれなかったんですか? 私がいつも言っていたことを忘れてしまわれましたか? 」
「うん?ああ、フローラちゃんにもっと会いたいってやつね? ………ねえ、リース、この間の話、まだ私も諦めたわけじゃないわよ。貴方は大切な甥だけど、これについては………ね? 」
「! お、叔父上とフローラ嬢が何歳離れていると思っているんですか?! 」
「だ、か、ら、それはこの間も言ったじゃない、貴方だってそうでしょう? ユアンの方が近いわよ。年を理由にするには、貴方がまず引っかかるわ」
おおう?
な、なになに? なんかフローラちゃんをかけて争ってませんか?
嫌だわ、モテる女は辛いわ!………いや、すいません、一回言ってみたかったセリフです。
それにしても、二人ともさすが王族………責任感が強いわ。
こんな幼女を守るために婚約しちゃうんだもん。
でも、数年の辛抱ですよ〜〜、もうちょっと大きくなったら殿下も解放されますからね?
陛下も仮の婚約って言ってたもの。
『モケ〜〜、主、また鈍感のスキルを発動させているモケ〜〜。前世からどうしてここぞという時に発動させるモケかね? もしかして鈍感の呪いにかかっているモケ? 』
おいおい、モケゾウさん、それは酷いんじゃないですかい?
これでも私、前世は人様の気配には敏感でしたよ。
嫌がらせで転移の魔法陣を仕掛けられた時は、かけてきた相手を反対に、魔法陣へめがけて叩き込んでやりましたよ。
『モケ〜〜、確かにアレは凄かったモケ〜。確か相手は半年ぐらいかけて準備していたのに、一瞬で主に気づかれて、魔法陣に叩き込まれてモケ。確か、魔獣の蔓延る森の奥だったモケね。たまたまその森に討伐依頼が入ったから行ってみたら、まだ生きてたバカを回収していたような気がするモケ〜』
あら? よく覚えているねモケゾウ。
でも、これでわかったでしょう? 私が敏感だって。
『モケ〜、主が敏感なのは戦闘面だけモケ。特に愛だの恋だのは無理だモケ』
モケゾウがヒドイ。
私だって、ちゃんと今世は出来るもん。




