第二十話 婚約者? が出来たよ!
「それで婚約者なんだが………」
陛下がとっても疲れた声で呟き、殿下の方を見た。
「フローラ嬢、まだ幼い君に無理はさせたくないけど、君を守りたいんだ………どうか私と婚約してくれないか? 」
殿下が私の目の高さに合わせてからそう言った。
っく、こんなカッコいい、しかも魅力的なお耳と尻尾の持ち主から、偽りの婚約とはいえ婚約を持ちかけられるなんて………私の底辺ともいえる乙女心がキュンとしてしまったわ。
前世含め、こんなに求められたことがあったか?………うん、戦力的には熱烈なのあったわ………で、でも、今回は、方向性が全く違う!
前世筋肉ダルマの結婚相手は天地がひっくり返ってもいないって言ってたヤツ見てるか!!
私が心の中でいろいろ葛藤していたら、どうやら殿下は私が困っていると思ったらしい。
「フローラ嬢、戸惑わせてしまって申し訳ない。でも………それでも! 私は君が誰かのものに……いや、その、あれだ………どう言えばいいんだ? 」
殿下のお耳と尻尾がペタ〜ンと力なく下がってしまっている。
こんな顔をさせたいわけじゃないのに。
そうだ! 女は度胸だ!
たとえ仮でも婚約は婚約、こんな機会もうきっとないもの。
私は今世を全力で楽しんでやる!
「殿下、私のことを考えてくれてありがとうございます。でも、本当に私が殿下の婚約者でよろしいのですか? 」
「も、もちろんだ! 絶対に何があっても私が守るから安心してほしい! 」
あ、殿下のお耳と尻尾が復活した。
今の私よりは年上だけど、カワイイな〜
「ふうー。すまないがベルンハルト子爵、王家が全力で守るからどうかフローラ嬢の婚約を認めてくれないか? 負担になることは重々承知しているが、こうでもしないと、フローラ嬢の身が心配過ぎるのだ」
陛下の言葉に父が若干項垂れ、震えながら
「そ、そうですね。我が家ではフローラを守りきれないかもしれません。いくらモケゾウ様がいても力で解決する問題だけではないでしょうし………そ、その、婚約は仮のものと考えてよろしいのですよね? 」
父がしっかり確認している。
怖いだろうに、父スゴイ!
「う、うむ、フローラ嬢が幼いこともあるしある程度大きくなるまではと、考えてはいる………いるのだが………おい、リース、私を睨むのは絶対に間違っているからな」
「睨んでなどいません」
殿下、言い切ってるけど……睨んでたよ?
殿下もいろいろ思うところもあるのだろうが、幼い私のことを考えてくれたんだろう。
優しい人だ。
「殿下、では、不束者ですがよろしくお願いします。あ、でも、殿下が本当に好きな人が出来て婚約者にしたくなったらいつでも言ってくださいね? それまでは仮の婚約者として私も頑張ります! 」
私の言葉に殿下のお耳と尻尾がまたペタ〜ンとなり、陛下は乾いた笑い、エリー様は大爆笑している。
あれ? 私、そんなにおかしいこと言ったかな?
だって、殿下は今十二歳………ということは、正式に婚約者を探し始める大事な時期のはず………そんな時期にこんな幼い、ちょっと特殊な子を守るためだけに婚約してくれるんだもの、本当に殿下が将来一緒になりたい人が見つかったらすぐに言ってもらわないと………私だって馬に蹴られたくない。
「う、うう、こ、これから頑張れば………きっと大丈夫………。フローラ嬢、私のことを心配してくれてありがとう。でも、私は君を大事にするから安心してくれ」
もう、本当に殿下は優しいわね。
『モケモケ〜。主は変なところが鈍感なのは昔から変わらないモケね〜。ところで、前に主に喧嘩売った侍女ズはどうしたモケ? まだヤッてないなら僕が相手をしても良いモケよ〜。大丈夫、僕は完璧に隠せるから安心して任せて欲しいモケ』
モケゾウがいきなりぶっ込んできた。
しかも私がつけた『侍女ズ』を使うなよ、恥ずかしいだろ。
「おお、上級精霊殿、あの侍女達のことはフローラ嬢に聞いたのか? あの者達はもうこの城にはおりませんぞ。あの後、他の下位貴族にも確認したら同じように失礼な態度を取られたと聞いたので、王都への立ち入りを禁止し、今後もしも王都で見かけた場合は処刑もあり得ると言い聞かせております」
ふむ、あの侍女ズは妙にプライドが高そうだったから、王都の牢屋よりも王都に居られなくなる方が罰になるだろうな。
と、私は思っていますが………
『モケ〜〜。ヤッてないモケか〜。じゃあ、もしも次、主の前に現れたら………僕がヤッてもいいモケね?
昔からそういう奴はしつこいモケ。一匹見つけたら三十匹はいるモケよ』
モケゾウは侍女ズを黒く光る虫とでも思っているのかな?
まあ、とにかく私は殿下の仮初めの婚約者になってしまった。
私がもう少し大きくなれば、すぐにでも婚約は解消されるだろうから、それまでは近くでカッコいい殿下を堪能させてもらおう。
仲良くなったらあのお耳と、滑らかな手触りそうな尻尾を触らせてくれるかな?