第十九話 普通でいいよ!
「…………で、フローラ嬢にはこの国最強の精霊が付いていると! 」
陛下が驚きの声をあげた。
そうですよね〜、まさかの魔術師長の精霊を教育的指導ですもんね。
私もビックリです。
「そうなの〜。スゴイわよ、私のキャロラインの高笑いを止めたんだから。あの子が自分から、もうあの高飛車な挨拶止めるって言ったのよ。………で、問題はその精霊のことを公表するかどうかなんだけど、私はした方が良いと思っているわ。だってフローラちゃんのことを知った高位貴族はどうにかしてお近付きになろうとするでしょう?その一番の方法は婚約………いくら法律で無理強いを禁止していても、何か抜け道を見つける奴も出てくるはず……。なら、最初からフローラちゃんには、最強の精霊が付いているからそんなことをしても無駄だってアピールしておかないと」
ふむ、私のこの可愛らしい子リス姿に、高位貴族の方々がメロメロ?
確かに今の私は非常に愛らしい………。
しかし、こう言ってはなんだけど、中身………私ですよ?
いや、私だって皆さんをメロメロにする目標は掲げてたけど、なんか私が考えていた感じの好かれ方じゃないと言いますか………。
結局、高位貴族を恐れない下位貴族だから皆さん興味を持っているということだよね?
「父上! それについて私に考えがあるのですが………」
「それと言うのはフローラ嬢の精霊の公表についてか? 」
「はい! いくら精霊が付いているとはいえ、フローラ嬢の魅力にやられた輩が掃いて捨てるほど出てくるのは確実です。フローラ嬢が高位貴族を怖がらないとはいえ、その両親であるベルンハルト子爵夫妻は今までの様子を見る限り、高位貴族を恐れる………。高位貴族にもし強く出られたら、望まない婚姻を結ばなければならない可能性があります! 」
「ふむ、それを防ぐ方法に心当たりがあると? 」
望まない婚姻か〜
前世はそもそも婚約者はもちろん、恋人もいたことなかったしな〜
私のこと好きだって言ってくれたのって、推定八十歳の鍛治師のお爺ちゃん。
私の上腕二頭筋に惚れたんだって。
………それってどういう好きなのかな?
好きって難しい……。
「はい、高位貴族が口を挟めない状況にすれば良いのです。その為に私が仮初めの婚約者として、フローラ嬢を守りましょう。私であれば高位貴族も口出し出来ないはずです」
「リース………お前は………」
あ、陛下が頭を抱えた。
そりゃそうだ、この国の第一王子を、いくら珍しい高位貴族を怖がらない下位貴族の令嬢だとして婚約者に充てがうなんて。
逆に反発が起こるんじゃないかな?
「あら、意外と良い考えかもしれないわよ。王族の後ろ盾があると知れば強引な方法はまず取らないでしょうし、なんなら私の婚約者でも良いかも知れないわね? 」
「な! 何を言ってるんですか叔父上! 叔父上とは年が離れすぎているでしょう! 」
「何よ、そんなこと言うリースだってそこそこ離れているじゃない。むしろ年のことを言うならリースの弟のユアンの方があっているんじゃない? 」
何やら私のことだけど、私をそっちのけで話がヒートアップしている。
これって私の意見って通るのかな?
なんなら大人しく田舎の領地にこもって、王都に出てこないことも出来ますけど?
『モケ〜 なんか面倒だモケね〜。主、主はどうしたいんだモケ? 』
「私は………普通の生活がしたいかな? モケゾウと一緒にお父様とお母様と、いろいろ楽しみたい。前世出来なかったことを………まあ、いつかは結婚もしてみたいかな」
『モケモケ〜、僕も主といろいろ遊びたいモケよ。昔みたいに巨大イカ(小船ぐらい)を丸焼きにしたり、山で狼の群れを躾けたり、今だったら僕もいっぱいお役に立てるモケ。結婚は………僕が認めたヤツじゃないとダメだモケ』
モケゾウがしきりに拳を高速で繰り出している。
私のお婿さんになる人はモケゾウと拳で語り合える人じゃないとダメなのね、ふふ、おかしいことを言っている自覚はあるけど、でもなんか嬉しい。
モケゾウはやっぱり私の味方だ。
私とモケゾウがコソコソ話している間に王族の話し合いも落ち着いたらしい。
「ふう………ベルンハルト子爵、そしてフローラ嬢、そなた達に多大なストレス与えることになってしまうかもしれないが、どうか仮の婚約でいいので王族と婚約を結んでくれないか? 」
おお、そんなところに話が着地していましたか。
「そ、それは、仮と言うことは、いつかは婚約をなかったことに出来ると言うことでしょうか? 」
父が陛下に問いかけた。
「う、うむ。今、フローラ嬢はまだ六歳。いくら精霊の力が強大とはいえ、魔法でごり押しではいらん反感をベルンハルト子爵とフローラ嬢が負うことになってしまうだろう。だから王族に盾にならせてくれ。元はといえばあの茶会が原因ではあるし」
仮の婚約か〜
仮とはいえ前世を含め初めての婚約者。
ところで結局、誰が私の仮初めの婚約者様なんだ。