第十五話 魔術師長に会いに行くよ!
「ああ、フローラ嬢、今日も可愛いな。その………この間俺が贈ったペンダントは気に入ってもらえなかったのだろうか? 」
殿下が耳と尻尾をペタ〜ンと力なく下げながら聞いてきた。
ペンダントと言いますと、この間陛下に献上した物の代わりに贈られてきたあの豪華なやつですね。
もちろんしっかり、きっちり、鍵のかかるところで厳重保管ですけど?
「とっても綺麗なペンダントでしたが、まだ小さい私がつけるには豪華すぎまして………。で、でも大事にしてます! 」
「そ、そうか………大事にしてくれていたか」
私の言葉に殿下は嬉しそうに微笑んだ。
っく、キラキラスマイルを至近距離で浴びてしまった!
そんなカッコいいのに無防備に笑顔を振りまかんでおくれ。
「………リースよ、お前いつもの鉄仮面はどこに置いてきた………。息子の急激な変わりように戸惑いしかないぞ。こほん、さて………そろそろアイツのところに案内してあげなさい。くれぐれも暴走させないようにな」
………暴走?
誰が? 話の流れ的に魔術師長様だよね?
なんでそんな危ない人に会わないといけないんだ。
『大丈夫モケよ。もしもの時は僕が本気を出すモケ』
モケゾウの本気って………。
ある意味こっちも暴走しそうで怖いわ。
「はい、父上わかりました。では、案内します。どうぞこちらに………あの、フローラ嬢………で、出来たら手を繋いで行ってもよろしいですか? 」
殿下がちょっと頬を染めながらそんな可愛らしいことを言う。
別にそのくらいなら大丈夫ですよ〜
「はい、別に良いですよ」
そう言って私は手を差し出した。
すると殿下がそっと私の手を握ってくれた。
「あ、ありがとうフローラ嬢! で、では向かおうか。ベルンハルト子爵も後をついて来てくれ」
私は殿下に手を繋がれ、父はその後ろをついて歩いて魔術師長の元へと向かった。
…………視線を感じる。
あちらこちらから視線が刺さる。
そしてその人たちはみんな同じような顔になる。
まず私を見てなんかホワ〜〜と笑顔になって、その次に殿下に視線を向けギョッとした顔になる。
服装から見るに皆さん高位貴族の方々だ。
ヒソヒソ話している声も聞こえるが………
「で、殿下が満面の笑顔だと!?」
「あの、どんな美姫にも塩対応の殿下が………」
「まあ、気持ちはわかる。あの可愛い子リスと手を繋げるなんて………」
なんか恥ずかしいのだが。
『モケ〜。主の中身も知らずに可愛い子リスだなんて………モケモケ〜ちゃんちゃらおかしいモケ〜〜』
………モケゾウ………あとでちょっと二人で、じっくり話し合おうね?
私の心の声が聞こえたのかモケゾウが震える気配が伝わってきた。
いろんな視線とヒソヒソ声に晒されながらも、終始ご機嫌な殿下に連れられ魔術師塔へとやって来た。
ほほう、ここが魔術師がたくさんいるところですか。
『やっぱり僕より強いヤツはここにはいないみたいモケね。僕が食物連鎖の………』
また言ってる。
よっぽど気に入ったらしい。
その食物連鎖、私は含まれているのだろうか?
「さて、今から魔術師塔に入るのだが、ちょっと汚れているから足元気をつけてくれ」
殿下がそう注意してくれた。
前世でも魔術師っていう人種は何故か片付けが下手だった。
どのぐらい下手かと言うと、読み終わった本を適当に放置して自分の出入り口を塞ぎ、その後研究に熱中した結果、魔力を使い果たし、出入り口をこじ開ける腕力もないため生死の境を彷徨ったという、何とも魔術師らしい逸話を残している者が半分を超えるというおかしな奴らの集まり。
よく、騎士団を脳筋の集まりとバカにしてきていたが、アレらよりはマシだと常々思っていた。
で、今世の魔術師はどんな感じかな?と塔へ足を踏み出せば………
「殿下、塔の中に森があります………」
「………ああ、あるな」
何故か塔への扉を開けて目にした景色は一面緑………目に優しいね。
よく見てみればどうやらいろんな植物が好き勝手に伸びているらしい。
殿下はため息をつきながらも慣れた様子で植物を薙ぎ払って前へと道を作った。
ちなみに父はずっと無言だ。
なんか色々諦めた表情をしている。
周りを見れば、塔内部の個人の部屋と思われる扉も植物が覆っていて簡単には開きそうもない。
………そうか、今世も魔術師はこういう感じか。
「さて、ひとまず道は出来たから先に進もう………そして叔父上に説教だ」
おう、殿下の目が光っている。
アレは獲物を狙うヒョウの目………魔術師長!狙われてますよー
その辺に転がっている植物を越えながら、奥の部屋へと歩き続けた。
………そしてようやく目的の部屋にたどり着いたらしい。
コンコン
殿下が扉をノックした。
「は〜〜〜〜〜い!」
ん? なんか妙に甲高い声が聞こえたんだが?
ここが魔術師長の部屋なんだよね?
いつも読んでいただきありがとうございます。
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