閑話 揶揄いの代償
それはいつもの遊びだった。
私たちは裕福な商人の子供で、身分もしっかりしている。
だから、王族の方が住んでいるお城で侍女として勤めることが出来た。
お城で働いている下働きの者はほとんどが平民だ。
そして王族に直接仕える者達は、高位貴族出身の者が大きく占める。
そんな中、平民とはいえ王族の侍女として勤めることが出来る私たちは選ばれた人間だと信じていた。
「ふふ、相変わらず下位貴族の方達って気弱よね〜」
「ほんと、そうよね! 私たちの方がよっぽど高位貴族の方達と話せているわ」
「貴族って言ってもお城に勤めている方もほとんどいらっしゃらないものね、下位貴族の方って」
今日もたまたまお城に用事のあった下位貴族の人をからかって遊んでいた。
あの人達は気弱だから言い返してきたりしない。
何かあっても
「私たちは王妃様付きの侍女ですわ」
で済む話。
王妃様は可愛い生き物が大好きで、小柄で可愛らしい顔立ちの私たちを可愛がって下さる。
失敗してもいつも優しく心配して下さる。
それから王妃様の侍女として勤めているとリース殿下をお見かけすることがよくある。
まだ十二歳なのに冷静で素敵な方だ。
歳はちょっと離れているけど憧れている。
高位貴族の方々は可愛らしい者が好きなようなので、もしかしたら私にもチャンスがあるかも!だなんて考えていた。
その日は朝から王族の方々の機嫌が見るからに良かった。
いつもクールなリース殿下も、チラッとお見かけした時に笑顔が見受けられた、珍しい。
そんな中、王族方や隣国の高位貴族の方々ぐらいにしか使用許可が下りない部屋を今日使うと連絡が入ってきた。
しかも下位貴族が使用すると………。
何かの間違いだと思った私たちは何度も上司に確認したが訂正されることはなかった。
正直、呆れてしまった………だってそんなこと絶対ないはずだもの。
私たちは身の程を弁えない今日来るというベルンハルト子爵家の者を懲らしめようとした。
それはいつもの下位貴族への揶揄い………。
とりあえずいつも一緒に下位貴族をからかっている門番に連絡を入れて、そのベルンハルト子爵家の者が到着したら私たちに連絡するよう伝えた。
そして、子爵が到着した後はいつものようにしただけ………
『本来であればこの部屋は、王族の方々や他国の王族の方々をもてなす由緒正しい特別な部屋なのです。間違っても、子爵家の方々がお使いになれる部屋ではございません』
ふふふ、これぐらいは言わせてもらわないと。
こんな豪華なお部屋、下位貴族の方などには似合わないわ。
お茶も必要ないでしょう?
あとは一時間ぐらい経ってから陛下方へ連絡が行くようにすれば良いだけ………。
これでこの下位貴族は陛下から叱責されるわ。
どうせ陛下の前では何も言えないでしょう?
そんな幼い子供を連れて王妃様の興味を引こうなんて卑怯よ。
私たちは意気揚々と部屋を後にした………この後あんな事になるなんて。
「それで、お前達は何なんだ? 」
今、私たちの前には王族の方々と、その護衛、あと宰相様がいる。
いつも優しい表情で私たちを見つめていた王妃様はとても厳しい目で私たちを見ている。
そして何よりリース殿下が………今にも襲いかかってきそうな雰囲気で私たちに問いかけてきた。
こんな高位貴族の人達見たことがない、怖い………。
私たちは何も言えず震えていた。
「母上………この者達はどうしますか? 母上の侍女だったのですよね? 」
「ええ、私の侍女でした………。本当に情けない! これはこの者達を野放しにしていた私の責任もあります。ただ、この者達は許せません! ベルンハルト子爵になんてお詫びすればいいのか………」
「王妃………王妃だけの責任ではない。高位貴族は細かいことを気にしない者が多いからこの者達の振る舞いも気にしていなかっただろうし、逆に下位貴族は城で高位貴族の圧に圧倒され言いたいことも言えなかったのだろう。そんな中フローラ嬢が現れた。だからこそこの者達は罰しなければならない! 高位貴族の希望とも言えるフローラ嬢にあのような仕打ちをするなんて………まあ、返り討ちにはあっていたがな」
ああ、私たちはどうすればいいの?
もう、ここでは働けないの?
せっかくお城で働けていることを自慢出来ていたのに!
これも全て『フローラ嬢』のせいだわ!
「お前達は未だ反省などしていないようだな? 」
宰相様が底冷えするような声を出した。
「そ、そんなことありません! わ、私たちは大変申し訳ないことをしたと反省しております! 」
私たちは目に涙を滲ませながら宰相を見た。
いつもならこれで許される。いつもなら………。
「陛下、この者達はフローラ嬢への負の感情で溢れております。即刻排除に動くことをお勧めしますよ」
「ひ、ひどい! 何故そのようなことを………」
心の中のことなんてわかるはずもない。
「ふう………わかりますよ。詳しく考えていることまではわかりませんが、負の感情なら読み取れます。これでも魔術師の端くれですからね」
その言葉に陛下が
「はは!魔術師の端くれか………魔術師長の座を蹴って宰相になったやつが端くれとはな。まあ、これでも宰相は精神系の魔術に詳しい。その宰相が言っているし、何よりあのフローラ嬢がくれたペンダントの証拠もあるしな。高位貴族は弱い者を守るためにある………その為下位貴族を守り慈しみ、平民も守ってきたが、礼儀を知らぬものを守る義理はない。お前達はこの後、今までの行いも残らず調査して沙汰を出す。言っておくが、甘いものにはならんから覚悟しておけ! 」
「ひーーーーーーー! 」
初めて正面から陛下の怒りの気を浴びた。
コワイ、コワイ、コワイ!
あまりの恐怖に私たちは気を失った………そして気づくと牢に入れられていた。
ああ、一体どこで間違ってしまったのだろう?