第百九話 え?そうなの?!
あっという間の実戦訓練だったけど、とりあえず無事に終わってホッと一息。
『………無事………モケ? 』
はい、モケゾウさん、無事って言ったら無事なんですよ?
誰も怪我もしていないし、なんなら旧友にも会えたもの。
『そうぞ! 久方ぶりに会えたのじゃ! 』
うん、そうだねくーちゃん。
ところで、モケゾウだけじゃなくくーちゃんまで私の心の声に返事をくれるのかな?
そんなに私ってば分かりやすいの?
『モケ〜』
『そうぞ〜』
二人は自分の宝物自慢をした同士だからか、実戦訓練から帰って来てから仲良くしているようだ。
今も私の心の声に仲良くお返事してくれている。
ちなみにあれだけ絡んで来ていたカルメラ様は実戦訓練後、ひたすら謝り続けてくれた。
本人が言うには、戦う力がない下位貴族が殿下の婚約者だと苦労することがわかっているから早めに離してあげたかったとのこと。
私の力があんなにあるとは知らず申し訳なかったと、土下座する勢いで謝られた。
「あら、ヴォル。そんなに難しい顔してどうしたの? 」
いつもの時間におやつを持ってきてくれたヴォルが珍しく難しい顔をしている。
いつもならおやつを出しながら、今日のおやつの解説をしてくれるのに。
「あ、ああ。すまん。今日のおやつは………」
説明してくれているけど、やっぱり心ここにあらずって感じ。
私が不思議そうにヴォルを見ていると、最近ではすっかり定位置のヴォルの頭の上からホムラが出てきた。
『ヴォルしゃん。ましゅたーに言いまちょー』
「いや、しかし………」
ホムラは何か理由を知っているみたい。
仕切りにヴォルに私に話すように説得している。
だけどなかなか煮え切らないヴォルにホムラがキレた。
『ましゅたーをこまらしぇるなんてヴォルしゃんらしくないでしゅ! とっととはいてらくになるでしゅ! 』
そう言うとヴォルの頭の上で足踏みし始めた。
「あ、こら! ピヨ助! このヴォルガノフ様の上で暴れるな! って、突つくのは反則だぞ! ハゲたらどうするんだ?! 」
なんか、ヴォルに困りごとがあるみたいだけど、ホムラとのやり取りが可愛すぎる。
じゃれあってる二人を見ながら私は、二人が落ち着くまでおやつ片手にそのやり取りを眺めていた。
ようやく二人の間で決着がついた頃には、ヴォルの髪はすっかりぐちゃぐちゃになっていたけど………。
「それで、ヴォルは何か困りごとがあるの? 仲間なんだから遠慮しないで言ってね? 基本物理的な攻撃力ならかなり強めだよ、今の状態は」
ヴォルとホムラがじゃれつき始めた頃に集まってきたみんなを見ながら私はそう言った。
みんな見た目は可愛いのよ、見た目は………。
でも、攻撃力だけ言ったらこの国で一番あると思うんだ。
「ああ、攻撃力が高いのは知っている、身をもってな………」
何かを思い出すようにヴォルが遠くを見つめてる。
何だろね、出会った時のことでも思い出してるのかな?
モケゾウに吹っ飛ばされていたからね………。
「まあ、あれだ。母国から帰って来てくれという便りが来ていただけだ」
『だけだ………じゃないでしゅよ! いちだいじでしゅ! ヴォルしゃんかえったら、だれがホムラのあいてしてくれるんでちゅか?! ホムラはヴォルしゃんとはなれたくないでしゅ! じゅっといっちょにいるんでしゅ! 』
ホムラが泣きながらヴォルにくっ付いている。
いつもくっ付いているとは思っていたけど、まさかここまで懐いていたとは。
「ほれ、ピヨ助そんなに泣くな。目が溶けるぞ」
ヴォルが泣いているホムラの目に取り出したハンカチを優しくあてている。
言葉はぶっきらぼうだけどその手は優しくホムラを撫でている。
こんなヴォルだからホムラも懐いたんだろうな。
「ところで何で今ヴォルに戻って来いって言ってきたの? 確か魔族は長生きだから、私が生きている間はここにいるって言ってなかったっけ? 」
「ああ、そのはずだったんだが………。急に………その、見合いをしろと言われてな」
『みあいーーー?! 』
やっと落ち着いたホムラがまた騒ぎ出した。
国に帰って来いっていう話は知っていたようだけど見合いの話は知らなかったみたいだね。
『ダメでしゅ! ぜーーーーーーったいにダメでしゅ!! みあいなんてぜったいにしちゃダメでしゅ〜』
ホムラがヴォルの顔面に引っ付いて抗議している。
ホムラの羽根がヴォルの顔面をバッサバッサと打ち付けているけど、ダメージはなさそうだ。
「こら、ピヨ助落ち着け。そんなに羽根を打ち付けたら怪我をするぞ」
なんなら心配までされてる。
そんな中ホムラが衝撃的な一言を発した。
『ヴォルしゃんは………ヴォルしゃんはぜったいみあいなんてしちゃダメなんでしゅ! だって、だって………ヴォルしゃんは………ホムラのちゅがいなんでしゅから!! 』
………ちゅがい………つがい………番い!?
え?! そうなの?!