閑話 クイーン
妾はゴールドドラゴン。
他のものはゴールドドラゴンと呼んだり、金色のとか呼ぶ。
妾がいつ頃から存在するのかは妾にもわからない。
かれこれ千年は軽く過ぎている。
妾にとって他の生物は皆平等………平等に妾より弱い。
たまに妾の住処に来ては、攻撃というには物足りないものをぶつけて来るがちょっと妾が鼻息を吹きかけただけで叫びながら逃げて行く。
だから妾にとって、他の生物は等しく弱いと感じていた。
そんなある日、妾が散歩に出かけた先で運命の出会いを果たした。
妾と戦える稀有な存在に出会うなんて今まで考えたこともなかった。
しかもそれが人間なんて………。
今まで会った人間というのは、小賢しくて、妾から何かをせしめてやろうとする小悪党ばかりであった。
しかしその日出会った人間は何もかも違った。
まず人なのに何故か圧倒的な強者のオーラを撒き散らしていた。
ここまでのオーラを纏うものがドラゴン以外に存在するとは、普通に驚いた。
『おい、そこの人間お前は本当に人か? 』
「うわ、ドラゴンが喋った! 」
妾が話しかけると多少驚いたようだが、普通に返してきた。
そして意味がわからないことを言ってきた。
「私が人かどうか戦って確かめて見れば良いと思うぞ! 」
『はあ? 』
どこの世界にドラゴンと戦って人かどうか確かめる奴がいるんだ!
………ここにいた!!
そこから妾と奴のよく分からない戦いが始まった。
とりあえず言えることは、やっぱりこいつ人じゃないんじゃないかということ。
『おい!どこの世界にドラゴンブレスまともに食らってピンピンしてる人間がいるんだ! 』
「え? ここにいるだろう? 魔法で防御すればこのぐらいいけるって」
『おい! どこの世界にドラゴンの尾のフルスイング片手で受け止める人間がいるんだ! 』
「え? ここにいるだろう? まあ、鍛え方が違うからな」
『おい! どこの世界に一週間眠らずにドラゴンと戦い続ける人間がいるんだ! 』
「え? ここにいるだろう? まあ、補助魔法をかけながら戦えばいけるだろ………とはいえ、そう言われると急に眠気が………ぐーーー」
『はあ〜〜〜? え? 寝てるのか? お前、今まで戦ってた奴の目の前で何ぐうすか寝てるんだ?! おい! おきろーーーー!! 』
そう、その常識知らずの人間は戦いの途中で熟睡し始めた。
なんなんだ、こいつ………。
こんな意味の分からない生き物は初めてだ。
………こんな楽しいの生まれて初めてだったんだ。
「うーん、ふぁ〜〜〜、良く寝た〜」
『そりゃ、三日間も寝てれば良く寝たという言葉も出るだろうよ。お前の精霊が心配そうに周りをグルグルしておったぞ。何やら回復術もかけておったようだから感謝するのだな』
「うわ! 喋るドラゴンだ! って、私は戦いの途中で寝たのか? 」
『ああ。思いっきりな! 普通寝るか? 殺されてもおかしくないんだぞ? 』
「いや、だって………お前強いけど殺気ないんだもん。最初から殺す気なんてないだろう? 」
………ほんとなんなんだこの人間は。
「お前っていうのもアレだな。なあ、名前はなんて言うんだ? 」
『ゴールドドラゴン………』
「それは種族名だろう? それだと私が名前は人間ですと言ってるようなもんだぞ」
『名前は………ない』
「はあ? それだと不便だろ? 」
『別に………。 呼ぶ奴もいないから困らない』
「じゃあ! 私が考えてやるよ! お前強いからな〜、キングっていうのはどうだ?! 」
『それだと雄の名前じゃないのか? 』
「え? お前雌だったの? 」
『死にたいのか? 』
「いや、ごめん。じゃあ、クイーンだな! クイーンだからくーちゃんな! 」
『クイーンは良いとして、く、くーちゃん? 』
「ああ、可愛いだろ? そうだ! これやるよ」
そう言ってその人間がくれたのはピンクのヒラヒラした布だった。
「ちょっと尻尾出して! えっとここをこうして、ついでに物体保存の術式かけてっと………ほい、出来た! 」
尻尾を見ると妾の尻尾にピンクの布が巻かれている。
「これで可愛くなっただろ? 私からのプレゼントだ」
あいつは妾に名前と愛称を付けて、生まれて初めて贈り物をくれた。
凄く嬉しくて泣きたくなったけど、そんなところ見せるのは恥ずかしくて我慢した。
その後もたまにあいつは妾に会いに来てくれた。
あいつの気配は離れていてもわかる。
だからあの日も分かったんだ………あいつの気配が消えるのが。
妾は急いであいつの気配が消えた場所に向かった。
するとそこにはあいつの身体に傷を付けている奴らがいた。
…………ふざけるな!!
そいつは妾の親友ぞ!
初めて出来た、生まれて初めて出来た妾の友達ぞ!!
妾は全力のドラゴンブレスを吹きまくった。
こうして妾の親友はあっけなく居なくなってしまった。
悲しくて、悔しくて、ずっと泣き続けた。
その後はあいつと会う前の生活に戻った。
妾は深い眠りについて、ずっと夢の中であいつに会えるのを待ち続けた………。
ある日、急に懐かしい気配がした。
これは………間違いない!!
あいつの………妾の親友の気配がする!
理由なんてどうでも良い!
早く、早く会いに行くぞよ!