第百七話 ドラゴンの涙
私の命令とも取れる言葉を聞いたみんなのその後の動きは本当に凄かった。
今までの身体の硬直が嘘のように解け、キビキビと撤退準備をしている。
なんならそのままドラゴンのところに行けるんじゃ? と思ったけど、流石に近くで咆哮を受けたらまた動けなくなるだろうから言わなかった。
撤退準備が整ったのか、代表して騎士が一人来た。
「リース殿下、ベルンハルト様、撤退準備が整いました! 我らは邪魔にならぬよう、ここから速やかに生徒を連れて脱出致します!お二人と精霊様、聖獣様のご無事を願っております。どうか無理はなさらずに」
そう言うと生徒を連れて速やかに出口へと向かって行った。
リズも残ろうとしたが、さっきの感じだとドラゴンに直接会うと危険そうだから、生徒たちに何かあった時の回復要員として撤退することを納得してもらった。
「じゃあ、みんなも離れたことだしそろそろドラゴンに会いに行きましょうか」
「『『『『おーーーーー!(カパーーーーー!)』』』』」
力強い返事が返ってきた。
これなら動けないってことはなさそうね。
私たちはドラゴンがいるであろう方向へと歩を進めた。
『モケ〜主がゴールドドラゴンと戦うのは二回目モケね〜。あの頃は僕はただの毛玉で、全然主の役に立てなかったモケど今回は頑張るモケ〜』
「そっか、前世でゴールドドラゴンと戦った時ってモケゾウと契約したばかりの時だったかな〜。戦ったことは覚えているけど、結構記憶が曖昧なのよね」
『僕はしっかり覚えているモケ〜。人間がゴールドドラゴンと一対一で戦うってどう言うことモケー!? ってなったモケ〜。あの頃は話せなかったからその驚きも届いてなかったモケど』
何故かモケゾウが遠くを見ている。
え? ゴールドドラゴンと一対一は人間の限界超えてたの?
『え? 主ちゃん、ゴールドドラゴンと一人で戦ったの〜? え? 主ちゃんの前世って人じゃなくて鬼神か何かだったトナ? 』
「え? 私の前世は正真正銘人間だったよ。ちょっと強かったかもしれないけど………」
「『『『『ちょっと? (カパ? )』』』』」
なんでみんなでそんな目で見てくるかな!
ちょっと人より戦闘センスが高いだけの、可愛い物が好きな普通の女の子だったよ!
『主は普通の女の子に謝った方が良いモケ〜』
「モケゾウがひどい! 」
そんな話をしているうちに随分と森の奥まで来た。
そろそろドラゴンが見えてくると思うんだけど………いた!
今の私が可愛い子リスだからか余計に大きく見える。
ドラゴンの方も私たちに気付いたようだ。
寝そべっていたようだがその身体を起こし、こちらを見ている。
というか、何故か私を凝視しているような気が………気のせいか?
『主〜、たぶん気のせいじゃないモケ〜。ものすごく見られているモケよ〜』
いつものように私の心の声に普通に返してくるな〜、モケゾウは。
そしてモケゾウとそんな話をしている間もドラゴンは私を不思議そうに見てくる。
なんでそんなに首を傾げているの?
時おり遠くを見つめたかと思うとまた私の方を見ては首を傾げている。
何分ぐらいそうしていただろう?
流石にそろそろ何か行動を起こそうかと思ったその時、ドラゴンが動いた。
尻尾をこちらに凄いスピードで振り下ろして来る。
これはもしかしてヴォルが言ってた、私がドラゴンに巻き付かれる予知?!
それに気付いたモケゾウと殿下が動いた。
モケゾウが結界を張り、殿下が私を抱き上げその場から飛び退いた。
私は………あまりにも殺気のないその攻撃に無防備だった。
ドラゴンは結界に尻尾が当たり、不思議そうな顔をしている。
ドラゴンは再度私の方へ尻尾を振り下ろして来た。
それをモケゾウが結界で防ぎ、殿下が私を抱き上げたまま移動する。
それを数回繰り返したところ、ドラゴンが………。
『うわーーーーーーーん!! 』
え?! 泣いた?
ドラゴンが大粒の涙を零し、大声で、しかも人語で泣き出した。
前足をバタバタ動かしてわんわん泣いている。
えーーー! これどういう状況?
みんなもびっくりした顔をしてドラゴンを見ている。
ドラゴンの涙でちょっとした池みたいなの出来た頃、ようやくドラゴンが泣くのをやめた。
ドラゴンはやっぱり私のことをジッと見てくる。
そして、大きく口を開くと………。
『妾は…………くーちゃんぞ!! 』
…………くーちゃん?
私たちがその言葉に戸惑っていると続けてドラゴンは喋りだした。
『妾は………妾はくーちゃん!! 昔の友が付けてくれた愛称ぞ!! そして名前はクイーン! これも昔の友が名付けてくれたぞよ! 』
そのドラゴンは今度はゆっくりと尻尾をこちらに向けてきた。
よく見ると尻尾に何かが付いている。
アレは………。