第百二話 勝負だよ!
モケゾウの一言にカルメラ様が真っ赤な顔で怒った。
「バカとは何ですの?! なんて失礼な精霊なのかしら!やはり下位貴族の精霊だから口が悪いのかしらね? そう思うでしょう?お兄様」
未だカルメラ様の暴言で顔色が戻らない騎士の兄は、もはや倒れるんじゃないかと思うほど顔色が悪い。
そしてカルメラ様が怒っているけど、私も怒っている。
確かにバカと言ったのはモケゾウだけど、最初に失礼なことを言って来たのはカルメラ様だ。
そんな静かに怒っている私の横で、モケゾウがしっかり怒っている。
『モケ! やっぱりバカだモケ! 主のことをバカにしてきて失礼なことを言っているのはお前モケ! そもそもぼくたちの力なんてなくったって主はお前のことを秒で倒せるモケ! 』
攻撃はしてないけど興奮中のモケゾウはしきりに拳をシュッシュと繰り出している。
私のことを一生懸命守ろうとしてくれているモケゾウを見ていたら、怒りはどこかへ飛んで行った。
「モケゾウ、ありがとう。私は大丈夫、私が怒ったのはモケゾウのことを悪く言われたからだから。モケゾウが私のために怒ってくれているのを見てたら、怒りも飛んで行ったよ。それより、カルメラ様? そんなにご自身の武力に自信があるのでしたら勝負しませんか? 今回の実技でどれだけ倒せたか競うのです。きっと口で何と言おうとあなたは聞いてくれないでしょうからね」
私の言葉にカルメラ様が乗ってきた。
「あら、私と勝負して下さるの? ふふ、光栄ですわ。リース殿下の婚約者様と勝負が出来るなんて………もちろん勝てた方がより優秀な婚約者候補ということになりますわよね? 」
自信満々にそう告げるカルメラ様。
「ええ、殿下を支えるのに武力が必要とお考えであるのであればそうですね。ところで、もしも私が勝てたらお願いがあるのですが………」
「まあ! 私に勝てると思っていらっしゃるのですね? ふふ、まだ小さくあられるから夢を見てしまうのですね。良いですわ、もしも私に勝てたらそのお願いとやらを聞いてさしあげますわ」
よし、みんなのいるこの場で約束を取り付けた。
あとでやっぱりなかったなんて出来ないですよ?
殿下はもちろん、エリー様や騎士団の人たちも聞いたし、なんなら精霊を引き連れた魔術師たちは気を利かせて魔法で契約書まで作成しようとしてくれている。
あ、せっかくなんでそれは下さい。
私とカルメラ様の勝負が決まり、ようやく周りの緊張感も解けてきた。
まあ、カルメラ様の兄は未だに顔色悪いけど。
兄の方は騎士団にいるなら私のことも知っているんだろうな〜。
「フローラ嬢、なんだか変なことに巻き込まれてしまったが良いのですか? 」
リース殿下が心配そうに話しかけてきた。
「たぶん今後もこういうことがあると思うので、一回私の戦いを見てもらおうかと思いまして」
私の言葉に殿下がニッコリ微笑んだ。
「そういうことであれば私も全力でフォローいたします。元はといえば私の婚約者だからと絡まれて………本来フローラ嬢を守るための婚約のはずなのにあまりにも本末転倒過ぎますが、私もフローラ嬢が戦っている姿を久し振りに拝見したいです。記憶は曖昧な部分はありますが、英雄様の勇姿を今一度近くで見たいです」
英雄様うんぬんのところは、私にだけ聞こえるように小さい声で話す殿下。
そうですか、前世の私の戦い方が見たいですか………。
流石に大きな武器は振り回せないから………いや、魔法を使えばいける?
『モケ………主は普通に戦っても強いモケ。無理に大きな武器は持たなくて良いモケよ? 』
「相変わらず私の心の声に返事をくれるよね、モケゾウは」
『照れるモケ〜』
何故か照れ始めるモケゾウ。
なんかクネクネしてる。
とりあえず可愛いから頭をなでなでっと。
まあ、そうすると他の子も並ぶからついでに撫でておいて………あ、殿下は並んでも撫でませんよ?
そんな悲しそうな顔をしてもダメです。
「まあ! 何を人前でいちゃついているのですか! なんて羨ましい………じゃなくて! 迷惑ですわ! さあ、さっさと勝負をしましょう! 」
なんだか分からないけど、余計カルメラ様を怒らせたらしい。
別に良いけど。
勝負するにあたり騒ぎを聞きつけてやって来た先生とも相談の上、ルールが決まった。
不正が無いようにお互いのチームのメンバーの一人が相手チームに入り、先生も付き添うとのこと。
もちろん騎士団や魔術師隊もいるから不正なんてしようとしても、出来ないと思うけどね。
うちのチームからは鼻息の荒いビビ様がカルメラ様のチームに、絶対に不正なんてさせないとのこと。
相手チームからはカルメラ様の取り巻きの人がやって来た。
「では始めましょう! 私が負けるわけないですけどね。では、スタート! 」
カルメラ様のスタートの言葉に私は駆け出した。
開始五秒、早速一匹ゲットだよ!




