第九十五話 変化の兆し 二
ダイン様によるレオナ姫の矯正はなかなかの成果を上げている。
相変わらず殿下にちょっかいをかけてはダイン様に回収されているが、殿下へのちょっかいも最近ではおざなりな気がする。
「リース様、これなんですが………」
レオナ姫から殿下に問いかけてはいるのだが、最近ではその視線は殿下を見ることなく隠す気もないのか真っ直ぐダイン様を見ているのだ。
こうなってくると、素直にダイン様に最初から話しかければ良いと思うのだけど、何故かそれはしないのだ。
私が不思議そうにその光景を見ていると。
『モケ〜。主には難しい問題モケね〜』
とモケゾウが言い、他の子達もウンウンと頷いているし、リズやビビ様まで同じように頷いている。
そんなある日。
今日は朝からレオナ姫の落ち着きがない。
何故なら、いつもは基本一番に教室にいるダイン様がもうすぐ授業が始まるというのにいないのだ。
何回も教室の扉を見ては、ダイン様の机を見て、視線をキョロキョロさせている。
「ダイン様がまだ登校して来ないなんて珍しいですね」
「たぶん入学してから初めてだと思いますわ」
私の疑問にビビ様がすぐに答えてくれた。
入学してから初めてか〜。
ダイン様は真面目が服を着て歩いていると言われるほどの方だから、遅刻なんて絶対しないもんね。
そうなってくるとダイン様に何かが起きたと考える方が早いけど………レオナ姫、めっちゃ落ち着きがないな。
さっきまでは席に着いていたけど、居ても立っても居られないのか席を立ち、教室の外まで行こうか迷っているようだ。
ガラガラ
扉が開く音が響き、期待に満ちた顔で入ってくる人物に注目するレオナ姫。
しかし入って来たのはカルド先生。
「みんなおはよう。ん? レオナ、何故立っておるのじゃ? ほれ座りなさい」
先生に注意されたレオナ姫は渋々自分の席に着いた。
だけどその視線は先生ではなく、隣の席を見つめている。
「さて、今日の予定じゃが………あ、そうじゃった。ダインは数日休むそうじゃ。それで今日の……」
ガタン!!
レオナ姫がマナーなど気にせず勢いよく立ち上がった。
そしてそのままの勢いでカルド先生に質問している。
「せ、先生! 数日休むって一体どうしてですか?! ま、まさか何かの病気とか怪我ですか?! 」
レオナ姫のあまりの剣幕に、流石のカルド先生もタジタジになっている。
「お、落ち着くんじゃレオナ。ダインは別に体調を悪くしているわけではないから安心せい。ただ、家の事情じゃから詳しいことは知らんのじゃ。数日したら来るだろうから、今は落ち着きなさい、ほら席に戻れ」
そうカルド先生に言われてレオナ姫はトボトボと自分の席に戻った。
そしてダイン様が不在のこの数日間、レオナ姫は一切殿下に話しかけなかった。
その徹底ぶりに殿下も苦笑いしていた。
ただ、ちょっと気になる報告が………。
学校が終わり家に帰宅すると、モケゾウがいつも情報収集を頼んでいる精霊達がモケゾウに何か伝えていた。
『モケ〜、なるほどモケ〜。報告ご苦労モケ』
何か問題でも起きたかと思いモケゾウに聞いてみるとこんな答えが。
『モケ………問題っていうほど問題じゃないモケ。ただ………メガネゴリラが可愛い女の子をエスコートしているのを目撃したようモケ〜』
「メガネゴリラってダイン様のことよね? それでダイン様が女の子エスコートしてたって、レオナ姫ではなくて? 」
『モケ、特徴を聞くと違うモケ〜。獣人の女の子みたいモケ』
な、なんということでしょう!
目撃されたのは今日ということだから、学校を休んだのはその女の子に付き合う為っていうのが正解だよね?
学校休んでまでエスコートするって、それって………。
「と、とりあえずその話はここだけの話ということにしておこう、ね、モケゾウ? 」
『モケ〜別に僕はどうでもいいモケ〜』
そ、そうだね、モケゾウにとったらどうでもいい話だよね。
で、でもこのことがレオナ姫の耳に入ったらどうなるんだろう。
レオナ姫は絶対に認めないと思うけど、今じゃAクラスではレオナ姫がダイン様に惚れているのはみんなが知る事態になっている。
次の日、教室に行くとダイン様が登校していた。
その横には笑顔を隠しきれないレオナ姫がいる。
めちゃくちゃ機嫌良いな、レオナ姫。
ダイン様がいない数日間は本当に凹んでいたからな〜。
なんだかんだで名物になっているその二人の姿をみんな離れて見ていると、一人のクラスメイトがダイン様の元に近付いていった。
あ、彼は………。
みんなが嫌な予感がしてその彼を止めようとしたが、時すでに遅し。
クラスで一番空気を読めない彼、ゾウ獣人のスタンプ様がダイン様に。
「やあ、ダインおはよう。なんかこうやって話すのは久しぶりのような気がするけど、姿は昨日見たんだよ。君、とても可愛い子をエスコートしてたじゃないか? 」
ダイン様の横でニコニコしていたレオナ姫の笑顔が凍った。