第九十三話 隠れた逸材だよ!
私の返答にレオナ姫は一瞬固まり、そのあと首を傾げてこう言った。
「ふふ、こちらでは了承の時には『無理です』と言うのかしら? 見たところ随分小さいようですけど、私の言葉が通じていないのかしら? 」
「通じていますし、『無理です』はそのままの意味ですよ? 」
このお姫様すごいな〜。
他国でこんな振る舞い出来るって。
しかもめっちゃ顔に出てる。
「ほほほ! 無礼な! 私のお願いが聞けないと言うの?! 」
「お願い? 命令の間違いでは? 」
「同じことよ! いいから早く退きなさい! 」
「………知らないのですか? この学校では身分は関係ないのですよ? 同じ生徒に命令出来るわけないじゃないですか。そんなことも知らないなんて、何でこの学校に留学して来たのですか? 」
私の何でこの学校に、という質問のあたりで殿下をチラッと見た。
完全に殿下目当てだね。
だいたい、私の隣にいるリズに全く気付いていない時点で分かっていたことだけどね。
ちなみにさっきからモケゾウ達は攻撃態勢に入ろうとしてるけど、今じゃないよ〜と念じて止まってもらっているし、ビビ様とナターシャ様も今にも飛び出そうとしているけど、目線でそれはやめてもらっている。
殿下は………さっきからピクリとも動かない笑みを浮かべて、目線だけでレオナ姫を凍らせることが出来そうな視線を送っている。
「そ、そんなのあなたに関係ないでしょう! 私は慣れていないのだから、同じく王族である彼に助力を求める為に近くの席に座るのが何の問題があるのよ! 」
「殿下はあなたのお世話係ではないと思いますよ? 」
「さっきから一体何なの?! 」
そう言うと私の方へ手を伸ばしてきた。
でもその手は届く前にモケゾウの作った結界と、殿下が出した手によって防がれた。
「一体何なのとは、こちらのセリフなのだが………私の婚約者に手を出すなんて、シルフィードはどうやら本当に戦争がしたいようだな? 」
「な! 婚約者ですって? この幼い子があなたの婚約者だと言うの? 」
「とやかく言われる筋合いはないな。年齢なんて気にならないほど我が婚約者は優秀なんだ」
殿下の言葉にレオナ姫は「ぐぬぬぬ! 」とでも言いそうな顔で私を見てくる。
感情豊かな王族だな〜。
初対面の相手にこんな風に接してくるなんて、自国でも自由だったんだろうな〜。
「よーし、そこまでじゃ! その席はフローラ嬢の席、まさか自分の意見を通す為に無理矢理退かすなんてことはないじゃろうな? 君はこっちの席じゃ。分からないことは隣の者に聞けば良い。もちろん命令などせず、普通に聞くのじゃぞ。それではこのまま授業を始める! 」
有無を言わせぬカルド先生の勢いに、流石のレオナ姫も渋々ながら指定された席に着席した。
隣はクラス委員長のダイン様。
ダイン様は侯爵家のご子息で、ゴリラの獣人だ。
その見た目に反して、得意分野は座学。
物凄く体格は良いけど、運動は苦手らしい。
あと、すごーく、真面目だ。
………あ、早速教科書を出さないレオナ姫に注意している。
最初は無視していたレオナ姫も、ずっと、淡々と、教科書出せ攻撃してきたダイン様に負けた。
嫌そうな顔で教科書を出している。
その姿を見ていたうちの子達とビビ様、ナターシャ様はご満悦だ。
うちの子達はダイン様を褒め称えている。
『あのゴリラやるモケ〜』
『ほんとであります! ただのガリ勉ゴリラじゃなかったでありますね! 』
『カッパッパ! 』
『声を荒げず、淡々と従わせる手腕………感服! 』
隣の席でレオナ姫の面倒を見てくれるだけでかなり助かるのに、それからのダイン様の活躍は正直私たちの想像を超えてきた。
「リース様、私次の授業の場所が分かりませんの。一緒に行って頂けませんか? 」
レオナ姫が満面の笑みを浮かべ殿下にそう言った。
殿下は安定の凍りそうな視線を向けて、断りの言葉を発しようとしたんだと思う。
けれどそれは不発に終わった。
何故なら彼が、今Aクラスで大人気の彼がそれを阻止してくれたから。
「レオナさん、何度説明したら分かるのですか? リース殿下はあなたのお世話係ではないのですよ。次の授業はあなたの唯一大好きなダンスでしょう? ほら、とっとと行って準備しますよ。あ、ちゃんと相手役は私が務めますので相手を探す必要はありません」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 私はあなたとなんて踊りたくないんだから! あ、な、ちょ、離しなさい!無礼ですわよ! な、なんて力なの、もう、引っ張らないでよ! え? きゃっ! なんで抱えだすのよ!! もう、降ろしなさい!! あー! なんでいっつも言うこと聞かないのよーー! 」
すごい。
毎回鮮やかにレオナ姫を回収していく。
こんなにすごい人が近くにいたなんて………。
今ではすっかりこのやり取りがAクラスの名物になっている。