第九十二話 問題児登場だよ!
いよいよ今日、シルフィード国のお姫様が学校にやって来る。
ルルル先生からは、私と殿下そしてリズが事前にいろいろ教えてもらっている。
本当は個人の成績なんて極秘事項だけど、迷惑かけられそうな本人たちには特別にということで。
「あのね、フローラ。もう何回も言っているけど、レオナ様はかなり真っ直ぐ突き進む方だから、何かあったら小細工するより直接やって来ると思うの。裏を読まなくて良いと思うんだけど、その分勢いが凄いから気をつけてね」
リズがもう何回聞いたか分からないアドバイスをまたしてきてくれた。
心配してくれているのだろうけど、さすがにこれだけ聞けば覚えるよ?
「リズ、ありがとう。いっぱい心配してくれているんだね。でも、大丈夫だよ?私が強いのリズは知っているでしょ? 」
「うん、それは分かっているよ。でもね、心配なものは心配なの! もしフローラに何かあったらって思うと………」
リズが凄く心配しているから、見かねたほぼリズに戻っているキラとドラが出てきた。
『あらあら、すっかりフローラ様に懐いているわね』
『そやな、でも実際にフローラ様の強さ見てたやろ? このお人なら大丈夫や! 何せあの蒼き鬼神を、ただの可愛い生き物だと思って接している強者やぞ! 』
二人の言葉に何故か納得した様子のリズ。
未だに蒼き鬼神がモケゾウという事実が納得出来ないけど、それでリズが安心出来るならまあ良いか。
「まあ、とにかく実際に会ってみないとどんな人か分からないから、会ってから考えるわ」
まあ、そこまでは心配していないけどね。
なんたって、さっきから私の視界ギリギリでウォーミングアップをするかのように、モケゾウたちがちょこちょこと動き回っている。
モケゾウは相変わらず拳をシュッシュと繰り出しているし、他のみんなもそれぞれの武器を持って何かしている。
そんな中、ヴォルはせっせとホムラに何か食べさせている。
最近ちょっとホムラが大きくなったような気がしていたけど、原因はコレだったのかな?
みんなも準備は良いみたいだし、学校に行きましょうか。
リズと一緒に馬車に乗り、学校へ向かう。
今日は殿下は早めに行って準備するということだったので、別行動だ。
学校が近くなり、そろそろ着くかなと思ってたらピタリと馬車が動かなくなってしまった。
ちょっと外を見てみると、学校近くで馬車が渋滞している。
珍しいこともあるものだと思っていたら、モケゾウが。
『モケ。今、野良精霊から情報が入ったモケど、見たことのない馬車が横入りしようとして揉めているらしいモケ〜』
モケゾウの言葉に私とリズが顔を見合わせた。
たぶん考えていることは同じ。
「「レオナ姫か〜」」
決まったわけじゃないけど、見なれない馬車ならその可能性が高いと思う。
大方、特別待遇とかで優先的に馬車を通してもらえると思ったんだろうね。
うちの学校はその辺り本当に平等で、殿下だろうがちゃんと列に並ぶようになっている。
さすがにこれが理由で退学にはならないだろうけど、巻き込まれた生徒は堪ったものじゃないよね。
どうなるかと思っていたけど、意外と早く馬車は動き始めた。
そのまま馬車留めまで行くと確かに見なれない馬車があった。
既にその馬車の主人はいなかったが、リズがシルフィード国の紋章が付いていると言っているのでほぼ確定でしょう。
まあ、ワガママなタイプの王族ならこれぐらいは想定内だ。
前世の王族の方が何倍もワガママだったし、誰も怪我人とかもいないようだから一先ず安心した。
Aクラスの教室に入ると既に殿下が疲れた様子で座っていた。
「殿下、おはようございます。えっと、大丈夫ですか? 」
リズも挨拶しながら心配そうに殿下を見ている。
「ああ、おはようございます。ちょっと朝からいろいろ立て込んでまして………」
疲労感がにじみ出てますよ、殿下。
私はそっと殿下にハンカチを差し出した。
疲労回復効果を付与したハンカチだ。
こんなこともあろうかと、何枚か用意してきたのだ。
「これは! え? 私が持っていてよろしいのですか? 」
「包装もしておらず申し訳ありませんが、そのままお使い下さい。少しは疲労が軽減されるはずです」
「フローラ嬢の手作りということだけで元気が出ます! ありがとうございます」
殿下が嬉しそうに胸元にハンカチをしまった。
少しは元気になれば良いけど。
そんなことをしているうちに始業時間になった。
いよいよお姫様の登場かな。
先生が教室に入って来て、その後に入って来た人物はとても綺麗なお姫様。
「レオナ・フォン・シルフィードですわ! よろしくして差し上げても良くってよ」
いや、初めの挨拶それはどうだろう?
クラスのみんなも固まっている。
クラスの反応に特に何も感じていないのか、レオナ姫はカツカツと靴を鳴らしこちらにやって来て。
「まあ、この間の方ね。私のことを覚えていらっしゃるかしら? こちらは不慣れだから是非いろいろ教えて下さいませ! そこのあなた、席を譲っていただけないかしら? 」
近くにいるリズにも気付かず、真っ直ぐ殿下をロックオン。
しかも私に席を譲れと言っている。
私の答えは………。
「あ、無理です」
にっこり笑ってそう言った。