第九十話 ヴォルのお菓子は美味しいよ!
学校に通い始めてから一ヶ月が経った。
今のところ平和に過ごせていると思う。
「「「フローラ様!おはようございます!」」」
「おはようございます」
教室に入ると気付いた方々が元気良く挨拶してくれる。
基本このクラスの方たちはみんな優しく、空気を読める方たちだから何も問題はない。
最近ではモケゾウ達もこのクラスではちょいちょい姿を見せている。
「あ、今日はカッパ様が来ているのですね! カッパ様おはようございます! 」
「モケゾウ様おはようございます! 」
皆さん、うちの子達にも挨拶してくれます。
『カパ〜』
『おはよ〜モケ〜』
最初は警戒していたモケゾウ達も挨拶を返すようになった。
皆さんの順応力に感謝だ。
今朝はリズが先生に呼ばれて、別々に行動している。
最近は平和だけどまだまだ油断出来ないからリズにはフランと、フランにくっ付いて来たトナトナが付いて行った。
『主〜、今日のオヤツは新作だからみんなで食べろって、ヴォルから大量に渡されたモケ〜』
そう言うとモケゾウが机の上に、ダンッ!ドンッ! と袋に入ったお菓子を置き始めた。
私が学校に通うようになってからは、毎日ヴォルがオヤツを作って持たせてくれる。
私が食べているのを見ていたビビ様に少しおすそ分けしたら大層喜ばれて、その事をヴォルに話したらこんな風にたまに大量に持たせてくれるようになった。
その量たるや、お菓子屋さんかな? と思うほどで………。
クラス中に配ってもまだあるから、先生達にも差し入れしている。
別にワイロじゃないよ? 日頃からそこそこ面倒かけているのは確かだから、お礼の意味でね。
結果、ヴォルのお菓子のファンが急増している。
ヴォルのお菓子美味しいもんね〜。
で、その事を報告すればヴォルのやる気もうなぎ登りで………最近の新作は全て気合いがスゴい。
ヴォルがお菓子屋さん開いたら物凄く繁盛すると思う。
まだ授業が始まるまで時間があるから皆さんにお菓子を配り始めた。
朝練があった運動部関係の方たちが早速食べ始めて、「今日のオヤツも美味いぞーー!! 」と吠えている。
今日もクラスは平和だ。
そんな中ビビ様がススっと近付いて来て、ニコニコしながら私の口元にヴォルのお菓子を差し出した。
私は思わず口を開けてそれを食べようとしたら………。
「私の目の前でフローラ嬢にそのような行為するとは………」
そう言って私とお菓子の間に教科書を入れ、あーんを阻止したのは凍てつく視線でビビ様を見ている殿下だった。
「ああ〜、もうちょっとでしたのに! 」
「何が、あー、もっちょとだ。勝手に私の婚約者に餌付けをするな! 」
「少しくらいいいじゃないですか! 」
「ご遠慮願おう。さあ、その菓子を持って離れろ」
これはいつものこと。
最初こそクラスのみんなもオロオロしていたが、今では視線をチラッと寄越し確認するとそのまま何もなかったかのように動き出す。
皆さま、空気読むの上手すぎです。
殿下とビビ様はいつものようにそのまま舌戦へと突入。
そしてモケゾウは………。
『主〜、あーんモケ〜』
舌戦を横目に私の口にお菓子をいれる。
モグモグ……うん、今日もヴォルが作るお菓子は美味しい。
私もお返しにモケゾウとカッパの口にせっせとお菓子をいれていると、先生に呼ばれていたリズがやって来た。
「おかえりなさい、リズ」
「ええ、ただいまです」
リズに付いて行っていたフランとトナトナもお菓子を欲しがったので、せっせとお口に運びながらリズの話に耳を傾ける。
「え? じゃあ、この間言っていたシルフィード国のお姫様がついにやって来るのね」
「はい、そうなんです。もう国は出たようで………」
話を聞いているとどうやら話がまとまる前にシルフィードを出発しているらしい。
なかなか行動力のあるお姫様だ。
「たぶんなんですけど………いえ、ほぼ確実にフローラと殿下に面倒をかけると思います。本当にすみません。私なんかの謝罪じゃ何の意味もないですが、本当にすみません」
リズが勢いよく頭を下げている。
どれだけワガママなお姫様なんだろう?
その話をビビ様と舌戦しながらも聞いていた殿下が、声をかけてきた。
「いや、謝るなら私の方ですフローラ嬢。この間シルフィードに行った時に目を付けられて、中途半端に放置して来たのが仇になりました。次は確実に突き放します! 」
『モケ〜、情報によると図書館の館長がこっちに帰って来るのに勝手に付いて来るみたいモケね〜』
「え? モケゾウ、それどこからの情報なの? 」
『………精霊なんてその辺にふらふらしているのも結構いるモケ〜。いろんな情報が入って来る中にそんなのもあったモケ〜。珍しくまともな情報だったモケよ。普段はどこぞの王族がカツラだとか、舞台女優が化粧を取ると別人とか、ほんとどうでもいい情報が入ってくるモケから』
意外といろいろ知っているのね、モケゾウ。