閑話 日常
ヴォルとホムラの場合
「ふむ、今日のおやつの仕込みはこのぐらいで良いだろう。………今頃ちびっ子は、ちゃんとやっているだろうか。やはりこのヴォルガノフ様がついて行くのが一番だと思うのだが」
私が学校にいるちびっ子を気にしていると。
『だめでしゅよ、ヴォルしゃん。この間もあのコワイ青いのに言われてたでちょ。あの青いのはましゅたー以外にはようしゃしないでしゅ』
私のポケットに入り込んでいたヒヨコがそんなことを言った。
確かにあの青い精霊は容赦ない。
すぐに拳を鳴らし始めるからな。
「ところでピヨ助、何でいつもこのヴォルガノフ様にくっついているのだ? 」
ちびっ子がいれば基本ちびっ子にくっついているヒヨコだが、日中ちびっ子が学校に行っている間は私にくっついている。
今日はポケットだが日によって頭の上にいたり、肩に乗ってみたり、背中に張り付いている時もあった。
流石に背中は、間違って潰す可能性もあるからやめさせたが。
『ヴォルしゃんの近くにいるとなんか落ち着くでしゅ。あと、ホムラはホムラっていう名前があるんでしゅ。ピヨ助じゃないでしゅよ』
「どう見てもピヨ助の方があっているだろう。まあ、ちゃんと大きくなったらその時は名前を呼んでやっても良いぞ。ほら、だからこれでも食べて大きくなれ」
『わあ! 大きなクッキーでしゅ! ………でも、大きしゅぎて全部食べられるないから半分こにするでしゅ』
そう言うとピヨ助は勢いよくクッキーをテーブルの角にぶつけた。
粉々になるかと思っていたが、見事に割れている。
『はい、ヴォルしゃん。しょれ、一緒に食べよ』
そう言ってピヨ助が渡してきたのは、ピヨ助にやったクッキーのほぼ全部。
ピヨ助が持っているのはほんの一欠片。
『しょ、しょんな見ちゅめないでくだちゃい』
「ピヨ助、そんなんではいつまでも小さいままだぞ」
『ホムラにはこれでも大きいくらいでしゅ! 大丈夫でしゅ! ホムラはちゃんと大きくなってヴォルしゃんに名前呼んでもらうでしゅよ! 』
そう言うとピヨ助は勢いよくクッキーに食らいついた。
………ふむ、ピヨ助用に新しい菓子でも作るか。
私は、口の周りにクッキーのカスをつけているピヨ助をキレイに拭きながら、そんな事を思った。
ふむ、平和だ。
ある学生の場合
「まあ、見てちょうだい! あんなに大きな口を開けて………」
「あら、本当に………それにあんなに口の中に入れて………」
「「なんて可愛らしいの!!」」
私たちのクラスに可愛らしい天使が訪れたのはつい先日の話。
突然現れたその存在はクラスのほとんどのハートを撃ち抜いた。
そもそも下位貴族を近くで見る機会は多くない。
彼らは私たちを本能的に恐れるからすぐに離れてしまう。
なのにあの天使は逃げないのだ!
天使には鉄壁の防衛団がついているからむやみに近付くことは叶わないけど、同じ教室にいれることがもう奇跡だ。
しかも、天使のおやつタイムはクラスメイトの心を癒してくれる。
毎日天使はおやつを持参してくる。
それを美味しそうにほっぺいっぱいにつめるのだ。
それをそっと見守るのが今クラスではブームになっている。
邪魔をしなければ防衛団も動かないから安心して見ていられる。
「「はあ〜今日も幸せ」」
友人と二人、毎日癒されている。
このような状態で勉強に身が入るか心配されることもあるが、それは問題ない。
だって、この癒しタイムを見るためにはこのクラスに居続ける必要がある。
成績が落ちるとこのAクラスにはいられない、ならばやることは一つ!
Aクラスの成績が過去一番上がったことは想像に難くない。
私たちは、これからもこの天使と同じクラスで過ごすために日々研鑽を積んでいる。