第八十九話 主守り隊だよ!
初日にプチパニックになった学校だけど、意外と平和に過ごしている。
まあ、なんで平和かは知っているんだけど………。
『モケ! 今日も主の平和は僕らが守るモケよ! 』
『了解であります!』
『任せろ! 』
主が楽しく学校で過ごせるように僕たちは毎日頑張っているモケ〜。
どんな風に頑張っているモケかと言うと………。
『隊長! 例のやつがまた主を狙っているであります! 』
『モケ〜、毎日毎日よく飽きないモケ〜。普通の時の動きはそうでもないモケど、何故か主を狙っている時だけ素早さがアップしているモケ〜』
『隊長! 俺が行く。毎日毎日やられるわけにはいかない! 』
毎日毎日、主を狙ってやって来るアイツ。
僕たちの目を盗んで巧みに主に近付くモケ。
『た、隊長! 抜けられたであります! 』
『っく、俺もだ、無念! 』
本当に毎回懲りないモケ。
部下たちがしてやられているのを見て気を引き締めるモケ。
この僕を抜くなんて、五百年ぐらい早いモケよ〜。
シュッ
僕の横を通り抜けようとしたところを魔法の網で捕獲する。
この毎日の攻防で、無駄に網作りが上手くなったモケ………。
「ムキーーー! 離して下さいませ〜! もう!いつもあとちょっとなのに!! 本当にしつこいですわ! 」
『しつこいのはどっちだモケ〜』
網で捕まえた獲物は悔しそうに地団駄を踏んでいる。
こいつは隙あらば主に抱きつこうとする厄介者モケ。
名前は確かビビ、クマの獣人モケ。
クマならクマらしく川で鮭でも取っていれば良いモケ〜。
部下たちは抜けても僕は無理モケよ〜。
と、こんな風に、私に不用意に近付いて来る人を捕まえているモケゾウ達。
ちなみにビビ様は普通に会話をする為なら近付いて来られるのだが、毎回私に抱きつこうとしてモケゾウ達に捕まっている。
フランとマサムネから逃げ切っているのは尊敬に値すると思うけどね。
そんなビビ様が珍しく普通に話しかけてきた、一緒にナターシャ様もいる。
「フローラ様、リズベッタ様、お聞きになりましたか? 」
「えっと、なんのお話ですか? 」
いきなりの質問に心当たりがない私は普通に聞き返した。
隣にいたリズもよくわからないという顔をしている。
「リズベッタ様の母国の王女様がこの学校に留学して来るという話です」
え? リズの母国って、あのエルフの国シルフィードのお姫様ってこと?
「まあ、他国からの留学生はそこそこ、この学校おりますからそれは良いのですけど、問題は私が聞いた噂ですわ。何でもその王女様はリース殿下目当てでこちらに来るようなのです」
「え? 殿下ですか? 」
「ええ! フローラ様という立派な婚約者様がいるというのに………あ、心配しないで下さいませ! もちろん私はフローラ様の味方ですわ! 」
と少々興奮しながらビビ様が言う。
隣のナターシャ様も。
「私は………私はフローラ様のことが好きですがまだ殿下のことは諦めておりませんわ。だからこそそんなぽっと出の、いくら他国の王女様といえ急に現れる者には負けませんわ! もちろんその王女様がフローラ様に何かするようなことがあれば………全力で応戦します」
ビビ様に引き続きナターシャ様まで好戦的だ。
さすが上位貴族。
しかしその王女様はどこで殿下のことを知ったのだろう?
ビビ様達とその話で盛り上がっているところに席を外していた殿下が戻って来た。
その表情はいつもより暗い。
「殿下、元気がないようですが何かありましたか? 」
空気も読まずに殿下にどうしたのか聞いてみた、良いんだ私六歳だし。
「ああ、フローラ嬢………いや、大丈夫ですよ」
殿下が無理に笑顔を作ってそう言った。
ふむ、言いたくないのか。
だけどそこで、その空気をぶち壊す勢いでビビ様が質問をぶん投げた。
「殿下! シルフィード国から王女様が、殿下目当てで来ると聞きましたわ! フローラ様という素晴らしい婚約者様がおられるのにどこでそんな者を引っ掛けてきたのですか?! はっ! いえ、そうですわ! 殿下はその王女様と仲良くすれば良いですわ、うん。そうすればフローラ様はフリー………私のお兄様とフローラ様が婚約すれば………ゆくゆくはフローラ様は私のお義姉様に! これですわ! 」
「馬鹿なのか? 」
殿下が底冷えする声でビビ様にそう言った。
「と言うか、何故君がシルフィード国の王女が来ることを知っているのかが疑問なのだが………。言っておくが私は引っ掛けてなどいないからな。たまたまこの間シルフィード国に行った時に少し会っただけだ。むしろ王女が用事があるのは聖女にだろう。聖女は王女と友人と聞いているからな」
その言葉にリズが首を傾げている。
「うん? どうしたのリズ? 」
「あ、えっと、私、王女様と面識はあるけど友人かと聞かれると………」
あ、これは完全に、リズを理由に殿下に近付こうとしてますね。
面倒そうな匂いがする。