第八話 オンナの闘いだよ!
結局、あれから一時間近く待たされている。
おかしいな〜、一応時間通りに来たんだけど………やっぱり王族ともなると忙しいんだね。
あ〜〜、早く帰りたいな〜。
部屋は豪華だけど何もすることないから暇だし、お茶もお菓子もない。
もしかしてだけど………歓迎されていないのではないだろうか?
「お父様、お母様、私達お城に来ない方が良かったんでしょうか? 」
私の言葉に父と母は力なく答えてくれた。
「そうだな、待たされるのはしょうがないと思うが、お茶も出さないというのは………考えたくはないが先程の侍女だけではなく他の者からも歓迎されていない可能性があるか………」
「そんな………どうしましょう………フローラちゃんに何かあったら………」
二人とも顔色が悪い。
うっ、これは私が悪い。
不安にさせることを言っちゃうなんて、考えなしだった。
私は出来るだけ明るく聞こえる声で
「お父様、お母様、私は家に帰ってお二人とゆっくりお茶やお菓子を楽しみたいです! だから今は頑張りますね! 」
私が出来る最高の笑顔で励ました。
さあ、早く来るなら来てくれ!
「そうだな、ここを乗り越えて家でレイアとフローラとのんびり過ごしたいよ」
「そ、そうね! 家に帰ったらとびきり美味しいお菓子を食べましょうね」
良かった、少し気持ちが浮上したみたい。
ふぅ、と私が安心していたところ扉をノックする音が響いた。
この部屋誰も侍女、侍従がいないからな〜
父が「はい」と応えたところで扉はこちらが開けるべきか。
私は素早く扉へと向かい、扉を開けた。
すると目の前が真っ暗に………あったかい壁?
「俺の天使………」
頭の上の方から声がする。
頑張って上を向くとそこには………殿下?
私はどうやらリース殿下の腕の中にいるようだ。
「えっと………殿下? 」
「声………可愛い………」
殿下は凄い笑顔で私を見ている。
なんだろう………この蕩けるような笑みは。
前世で部下が嫁をデロデロに甘やかしている時の顔に似ている………。
まだ二回しか会っていない幼女にする顔じゃない。
殿下、十二歳の割に大人っぽいから妙な色気がある。
とりあえず落ち着かないからリース殿下の腕の中から抜け出そうとしているのだが、ビクともしない。
「リース………落ち着きなさい。フローラ嬢が困っているようだぞ」
この声は陛下かな?
抱き込まれているからよく見えない。
「そうよリース、しつこいと嫌われるわよ」
もう一人は王妃様みたい。
王妃様の言葉にようやくリース殿下の腕の中から解放された。
陛下に促され席に着く。
私は両親の間にちょこんと座る。
本当はリース殿下が私を膝の上に乗せて座ろうとしたのだが、陛下と王妃様に反対され、もちろんうちの両親にもやんわりとした拒否にあい断念していた。
そのかわり今日もジーーーっと見つめられているのだが………。
「ところで約束の時間よりも遅かったから何かあったかと心配していたが、大丈夫か? 」
何ですと?
遅かったのはそちらでは?
私達家族が困惑していると
「お茶もいらないと言っていたみたいだけど、何か急用でも入ったのかしら? 」
今度は王妃様からそんなお言葉が。
ほほ〜〜これは、これは、フローラちゃんカッチーーーーンときましたよ。
チラッと、陛下方とちゃっかり一緒に入ってきた侍女ズを見る。
澄ました顔でお茶の準備をしている。
父と母はどう言ったら良いものかと悩んでいるようだ。
普通の下位貴族であれば高位貴族の象徴のような王族に口答えなんて有り得ない。
両親に挟まれて座っているから気付いているけど、二人ともちょっと震えている。
陛下達に責めるつもりは無いようだけど、やっぱり二人にはキツイんだ。
ならここはフローラちゃんの出番でしょう?
私ってば、六歳のお子ちゃまだし、下位貴族だもの、多少の無礼など私は気にしない!
「陛下、私達は一時間前からこちらのお部屋に案内されていましたよ」
私がそう言えば陛下と王妃様、殿下は『えっ?』という顔をされ、両親は困ったような顔でそれを見ている、そして侍女ズは『ギョッ!』とした顔をしている。
あれだな、侍女ズは下位貴族の私達がそんなことを言い出すとは思ってもいなかったっていう顔だ。
いいよ、前世拳で数々の困難をくぐり抜けてきた英雄である私が、今世では拳ではなく戦ってやろうじゃないか。
まあ、最終的に解決しなかったら武力制圧も頭の片隅には置いておく………。
「あと、お茶はいるかいらないかも聞かれていません。父と母もお城で気疲れしてしまっているし、もうそろそろ帰ろうかと思います」
あまりにも無礼な台詞である。
でも、呼ばれて来ているのにこんな扱い最悪だ。
だから私はあくまで何もわからない幼女のように振る舞う。
ニッコリ笑顔でね。
やばい、今、私、前世で出来なかったオンナの闘いやってるんじゃない!?