第一話 やったよ!子リスになれた!
リスの獣人に生まれ変わった。
やったよ!私!
前世では女性でありながら筋肉ゴリラやら鋼鉄の巨人やら、女性につけるにはあまりにもヒドイ呼び名で呼ばれていた私。
確かに私は騎士として心身ともに鍛えていた。
しかも才能があったのか、スクスク育った。
その結果女性ながら国一番の騎士に与えられる『英雄』の称号も授かったりしてみたり。
そしてその英雄の名に恥じない立派な体格の持ち主。
だがしかし、私は本当は可愛い装いをしたかったのだ!
けれど前世の私にそんなものは似合わない。
ゴリラがピンクのフリフリなど着て人前に出ればどうなるかなんて火を見るよりも明らかだ。
しかし、神は私を見放さなかった!
見よ、この愛らしい尻尾を。
見よ、このクリクリのお目々を。
見よ、この小柄な抱きしめやすそうな身体を。
何より全てが可愛い!
私は本当に生まれ変わったのだ!
これで念願のフリフリ衣装を思いっきり楽しめるし、人前でも甘いスイーツを頬張れる。
ただ、一つ気になるのが貴族の家に生まれたことだが、うちは貴族とはいえ爵位的には下から数えた方が早いしがない子爵家の一つ。
貧乏とは言わないが、裕福とも言い難い微妙な立ち位置。
前世の私は英雄とはいえ貧乏男爵の末っ子だった。
嫉妬や僻みなど負の感情を向けられることも多々あったが、私はメンタルも鋼鉄。
大抵スルーだが、私も人間なので苛立っている時もあった。
そんな時は伝家の宝刀『では、英雄は辞めて国を出ます』を炸裂させていただいていた。
それで焦るぐらいなら初めから絡むな馬鹿が、と何度思ったことか。
まあ、末端とはいえ貴族の経験はあるから何とかなるだろう。
「フローラ、あぁ、今日も我が娘は可愛いね」
私のことを抱っこしながらデレデレした顔でそんなことを言っているのが、今世の私の父、リンガー・ベルンハルト。
そして私の名前はフローラ・ベルンハルト、六歳。
「まあ、旦那様、フローラが可愛いのは当たり前ですわ。さあ、お母様のところにも来てちょうだい可愛い私の天使」
そう言って両手を広げ待ち構えているのがレイア・ベルンハルト、私の母だ。
これだけでわかるだろうが、今世の父と母はかなりの親バカだ。
私が何をしても可愛いともてはやす。
私が前世の記憶がなければ高確率でワガママ令嬢の爆誕だったことだろう。
「可愛いフローラ、今日はお城に行くよ。前に行ってみたいと言っていただろう? 今日は同じ年頃の子供たちの顔見せをするんだ。お友達もきっと出来るよ」
なるほど、城で顔見せと言うことは王族にも会うのか。
それは面倒だけど、同年代の友達というのは心惹かれるものがある。
何より貴族というのは全て何らかの獣人なのだ、この世界は。
私の前世では普通に平民にも獣人はいたのだが、どうやらこの世界は違うらしい。
とはいえ、私も今世ではほぼ屋敷の外へは出ていないので本での知識なのだが、特に力が強い獣人が上位の爵位についていることが多いとか。
確かこの国の王族は獅子、公爵の中には狼や豹なんてのもいるらしい。
ふふ、楽しみ。
だって前世では動物は私のオーラにビビって近づけばそれ以上に逃げるんだもん。
獣人ならそんなことは無いだろうし、私と同じくらいの年頃だとしたらそれはそれは可愛いが溢れているに違いない。
何それ、パラダイスじゃん。
「お父様、私、お友達がいっぱい欲しいです! みんな仲良くしてくれるでしょうか? 」
私の問いかけに親バカ全開の父は
「当たり前だよ! 私のフローラは天使のように可愛いのだから。みんな君と友達になりたいと思うに決まっている! 」
「そうなると良いですね。みんなお友達になりたいと思ってくれると嬉しいです」
父に聞いたのが馬鹿だった。
でも、可愛い獣人のお子様たちに会えるのは本当に嬉しい。
前世では子供にもビビられて私が近づくと泣かれていたし、あれは心の中で泣いた。
可愛いものが大好きなのにそれを大っぴらに出来ないのは苦行以外の何者でも無い。
どんな訓練よりも厳しいものだった。
だけどそんな悲しい前世も今の私には何も問題はない!
見よこのフワフワの目に優しいピンク色のドレスを着た私を!
チャームポイントの尻尾ももちろん手入れしているので手触り最高だ。
子供なので化粧などしなくても問題ない。
「では、出かけようかフローラ」
そう言うと父は私の手を引いて馬車に乗り込んだ。
はい、着きました!
お城です!
今日は城の中にある庭で、気楽なお茶会だと馬車の中で父が言っていた。
まあ、お子様がいっぱいなら格式張ったものより、こんな感じの気楽な集まりの方が良いよね。
それに、貴族といっても前世よりも礼儀作法などは厳しくないと感じている。
たぶん貴族が獣人というのも関係があるようだ。
庭にはテーブルと椅子が用意されているが、基本立食式のようだ。
いろいろな人と接することが出来るようにされているようなのだが、一点非常に気になることがある。
………なんか、庭の真ん中に違和感を感じる。
たぶん魔法で細工がしてあり、反対側が認識できないようになっているようだ。
「あの、お父様、庭の真ん中に何かあるようなんですが?」
とても気になるので父に聞いてみる。
「あ〜、あれはだな。うーん、フローラは気づいたか。もう少したったらわかるから、もうちょっと待ってておくれ」
父は困ったようにそう言った。
ふむ、困るようなことだったか。
周りを見れば他の子はどうやら気にならないらしい。
でも、まあ、後でわかるようだから今気にしても無駄か………それよりもだ。
ふふふ………周り一面カワイイ獣人でいっぱい。
そう、ここはパラダイス!
あっちを見れば猫の獣人が、そっちを見れば犬の獣人が四方八方みな獣人!
カワイイが渋滞しているよぅ〜。
どうしよう、誰から声をかけたら良いんだろう?
うちの爵位は下の方だから一般的には上の方にこちらから声をかけるのはマズイはず。
う〜、でもみんなカワイイ!
とりあえず父にお伺いを立ててみるか。
「お父様、私みなさんとお友達になりたいです。どうしたら良いですか?」
私の言葉に父はニコニコしながら
「もうすぐ陛下が来られる。それからみんなと話す時間が設けられるからな。………ただ、ちょっと我慢が必要なこともあるのだが……陛下もみんなの負担になることは望まれないからすぐ済むはず。フローラもちょっと辛いかもしれないが必要なことだから我慢しておくれ」
うん?
なんか我慢大会でもするの?
まあ、それでも前世でやった一ヶ月間ナイフ一本で魔獣の蔓延る森でサバイバルよりかは楽でしょ。
いや〜、あれはなかなか凄かった。
最後には森の主と意気投合したけどね、でっかいドラゴンだったわ〜
なんて考えているうちにどうやら陛下がいらっしゃっるようだ。
獅子の獣人ということは筋肉ムキムキな感じなのかな。
でも、そういう人がお耳フサフサ、尻尾フサフサだとカワイイと思っちゃうのよね。
陛下に不敬になっちゃうから言わないけどさ。
そしていよいよ陛下とご対面!
と、なり陛下の姿が現れたと思っていたら周りの様子が何やらおかしい。
「キャン!」
「キュウウ〜」
「ミャウ!」
え!なになに?なんでちびっ子獣人のみんな震えてたり、泣いたり、丸まってるの!?
大人はそこまであからさまではなさそうだけど、付き添いで来ていた母親らしき人たちの中には少し震えている人もいる。
なんで?と、不思議に思い周りをキョロキョロ見ていた私は思いのほか目立っていた。
だって、陛下が目をまん丸くしてこっちをガン見してきてるんだもん。
ちょっと、いくらフローラちゃんがカワイイからってそんな驚くことないのに。
なんて思ってみましたが、なんか違うような気もする、うん。