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第1章:歯並びがいいから殺される(第2話)

「おい、全員顎をあげろ。口を開けろ。アホ面をさらせ」

(なんで口を開けさせるのかな?)

(健康状態が解りやすいんだろ、きっと。さっさと言うこと聞いとけ)

(健康状態…か…。あんた、歯周病が酷いから気をつけたほうがいいよ)

(歯周…なんだって?)

「おい、私語をするな。時間がないんだ。口を開けろ」

(歯周病の程度と各種疾患の罹患状況には有意な相関がある…この男、大丈夫だろうか…)

「フガ…」

「あぁん?」

(この時代の人間に、そんな知識があるものだろうか…。経験的に知っているのだろうか…)

「へっ。酷いもんだな。そうか。解った。お前は向こうのグループに行け」

「向こうの…って、まさか…!」

「向こうは向こうだ。さっさと行け」

「た、頼む、俺も連れて行ってくれ。こんなところで死にたくない」

「お前の命のことなど知らん。お前には商品価値がない」

「待て、俺は金貨を持っている。それで見逃して欲しい」

「螺鈿の次は金貨か。今度は月面に置いてある、とでも言うんじゃなかろうな」

「金貨は、今、俺が持っている」

「ほう、そうか。さて、どこに隠したのかな。ここに連れてこられるまでに所持品検査はしている筈だが。見落としたという事は、誰の責任だろうな? お前、あそこにいる私の部下たちに責任を押し付けようっていうのか?」

「そんなつもりは…」

「まあいい。あるものなら出せ。それ次第だ」

「…すぐには出せない」

「おい、連れて行け」

「待て! 待ってくれ…。ここでは出せないんだ」

「出せない金貨ならいらない。これ以上お前に使う時間はない」

「わ、解った…。今、出す…」

(おいおい、全員が見ている前で出すつもりか…。でも、この状況では仕方ないだろうな…。彼を救う方法は何か…ないか…)

「ぎぎぎ…ぐぐ…」

「おい、まだか」

「ぐぐ…ぐぐぐぐぅ…」

「そうか、解った。おい、連れて行け」

「畜生! なんでこういう時に出ないんだ…。ま、待て! 今、指でほじくり返すから…」

「駄目だ。だったら直接ケツの穴を切り裂いた方が早い」

「く…くそぉ…」

(連れて行かれてしまった…。そんな目で僕を見るな…。僕にはどうしようもないじゃないか…。それに、次は僕の番なんだ)

「おい、次はお前だ。口を開けろ」

(…いよいよか。覚悟を決めようにも、なぜ僕がここにこうしているのかさえ解らない状態では、未練もくそもないな…)

「あ~ん」

「…なんだお前…。やたらと歯並びがいいな…。抜けている歯もなさそうだし、どの歯も白い…」

(一応、これでも歯医者だからな…)

「お前、どういう素性だ? 歯並びがいいからといって、名家の出や、貴族ではあるまい。砂糖菓子ばかり食ってる貴族なら、かえって虫歯が多いし、それをステータスにしたがる。愚かだからな。平民が普通に生活していれば、お前の歳でこれだけの歯が何の異常もなく残っているのは不可解だ。それに…なんだ? この奥歯は…」

(しまった、銀歯だ。クラウンの銀歯を疑われてしまった…)

「…ほう…。なるほど。胃の中やケツの穴の中に金貨を仕込むのは救えんが、歯の中に財産を隠す方法があったとはな…。だが残念だ。これが金か宝石なら価値があったのにな…。銀ではな…。おい、誰かナイフを持ってこい」

(ナイフだって…? 一体、ナイフをどうするつもりだ…? まさか…!)

「お前は健康体だ。殺しはしないが、この銀は頂いていく。靴の修理代くらいにはなるかもしれんからな」

(そんな価値のある量の銀は奥歯に埋まっていない。でも、この場合はおとなしく歯を抜かれた方が賢い選択だろうな…。麻酔なしで…やるんだよな。当然」

「ナイフです」

「よおし。おい、口をちゃんと大きく開けておけよ。要らぬ場所まで切ってはお前の商品価値が下がるからな…」

(ナイフの切っ先が…歯茎にあたった…。歯を食いしばりたいが、食いしばれない…。我慢できるだろうか…。…ん? この男…右上の3番が齲蝕(虫歯)している…。しかも、C3からC4レベルだ。これは相当痛いはずだぞ…)

「ひとつ、訊きたいんですが…」

「おい! いきなりしゃべるな。舌を切り裂くところだったぞ」

「失礼を承知で、あなたの歯を見せて貰えませんか?」

「はぁ? ふざけるなよ。なんで奴隷の代わりに私が奴隷に向かって口を開けなければならない?」

「なるほど、この時代、世界には、歯科医は存在しないと推察しました」

「歯科医…だと?」

「歯の専門医の事です」

「歯の…医者? 歯だったら、散髪屋が抜歯をやってるじゃないか」

(ああそうか、そういう時代背景なのか。床屋が外科を兼ねている世界観…。という事は、やはりここは現代日本ではないな…)

「散髪屋は抜歯しかできないでしょうね。でも、歯の専門医ならもっと別の治療も可能です」

(とは言ったものの、各種薬品がなければ、コントラもバーもバキュームもないだろうな…)

「んん? お前が、その、歯の専門医なのか? それとも、またお前の友人が…とかいう話じゃないだろうな」

「僕が歯の専門医です。だから、口を開けて下さい。あなたの力になれるかもしれない。少なくとも、あなたの…その歯は、かなり進行した虫歯です。ものを食べる時はもとより、普段からズキズキ痛む筈だ…。眠るのもままならない夜があるでしょうし、もしかしたら、肩こりや頭痛にも悩まされているのではないですか? 痛みをごまかすために、タバコや酒、その他麻薬類に頼るのは危険ですよ」

「…なるほど。お前が役に立ちそうだ、という事は理解できた。私が口を開けるかどうかはあとで判断する。お前はこのまま待機だ。残りの奴隷を鑑定するまで待ってろ」

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