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第6章:口臭のキツイ美少女の歯科治療は見世物になるか(第3話)

「じゃあ、口を開けてもらえますか?」

「あ~ん」

「あ、窓からの光が当たる方向に顔を向けて貰えますか? そう。そう…。うん。問題なさそうですね」

「大丈夫そう?」

「この調子なら、すぐにでも矯正具の装着に入れそうです」

「本当? よかった! わたしね、この銀歯、とても気に入ってるの」

「銀歯を…ですか? それはまた、どうして」

「だって、物を噛んでも全然痛くないんだもの。おかげで、頭痛もなくなったし、お稽古の時に歯を食いしばることが怖くなくなった! それに、寝付きもよくなったのよ。だって、今までは寝返りをうつたびに歯が痛かったし、そうでなくても歯が痛かったし…。実は、お通じも良くなって、お腹が痛いのもなくなったの…」

「そ、そんなにいいのか? カネマラよ」

「パパも気になるなら、早くやって貰った方がいいよ。歯が痛くない人生がこんなにも素敵だなんて知らなかったわ」

「そんなに喜んで貰えるなら、苦労して道具を準備した甲斐がありましたね。でも、口を開けた時に銀歯が目立つのは嫌ではないですか?」

「全然! その逆なの。今までは、口を扇子で隠していたし、歯並びや虫歯や口臭で大口を開けて笑う事なんてできなかったのよね。それが、今は大きな声で笑うのが逆に楽しくなっちゃって。だって、陽の光で銀歯が輝いて見えるでしょ?」

「…なるほど、装飾品みたいな感覚なんですね…」

「ええ、みんなに素敵だって、言ってもらえるのよ。シカイ、ありがとう!」

「ちなみに、試作品の歯ブラシの調子はどうですか?」

「すごくいいわ。シカイに教えて貰った磨き方で、歯がツルツルになるし、いままで楊枝でもなかなかとれなかった歯にはさまったお肉なんかもきれいにとれるもの。ただ…」

「ただ?」

「歯を磨いたあとに、口の中に抜けたブラシの毛が結構、残るのね…」

「この国に交易で入ってくる棕櫚(ヤシ科の植物)の、できるだけ細い繊維でブラシにしていますけれど、素材は考えたほうが良さそうですね。あと、毛の植え方も。ナイロンはさすがに望めませんが…。そして歯磨き粉もなんとかしたいな…」

「おい、奴隷氏はいるか?」

「ん? 客人か? なんだ、ギルド長か。シカイに用があるなら、主人である私を通すのが筋だろうに」

「済まない、ミドルトン殿。ただ、火急に相談したい事があってな…」

「どうされたんですか?」

「国王からギルドに勅令の手紙が届いた」

「勅令…ですか。よくある事なんですか?」

「まさか。こんなこと、ギルド始まって以来だ。だからこうして慌てて相談に来た」

「道理ですね。で、どんな内容なんですか?」

「これだ。読んでみろ」

「ええと、ごめんなさい。僕は、まだこの国の文字をうまく読めないんです」

「そうか。そうだったな。じゃあ自分が手紙の要点だけ読み上げてやろう。『現在、広場で公開実施している歯科医療を即刻中止せよ』『治療にあたっているメンバーを全員出頭させよ』。奴隷氏よ、何か心当たりがあるか? ここでカネマラ女史の治療を止められてはたまらん」

「いや、広場での公開実施を止めろ、と言っているだけで、カネマラさんの治療自体をしてはいけないとは書いてないんじゃないですか? カネマラさんの治療は進めましょう」

「宣伝にならない分、商売には差し支えるがな…。しかし、なぜ急にこんな手紙が来たのだろうか…」

「…前回の治療の時に、国王の秘書官が見物に来ていたみたいです。僕に心当たりがあるとしたら、それくらいでしょうか」

「秘書官…だと? シカイよ、それは本当なのか?」

「ええ、ミドルトンさん。ターコネルさんが、紋章を見て、そうじゃないかって」

「そうか…。となると、出頭しない、という選択肢は存在しないな」

「パパ、この場合、いい事なのかしら? それとも、悪い用件なのかな?」

「さあな。この手紙の書き方だけではなんとも言えない。もし悪い用件だとしたら、最悪シカイは殺される可能性があるな」

「やはりそうですか、ミドルトンさん。覚悟はしておいたほうがよさそうですね。しかし、国王も人が悪いですね。手紙に用件を書いておけばいいのに。ラインとかのメッセンジャーで、こういう送り方をする人は間違いなく嫌われますよ」

「おい、口を慎め。仮にも私は国の人間だ。奴隷が国王の悪態をついたとなったら、私は本来、その場で切り捨てなければならないのだからな」

「…失礼しました」

「シカイさん、とりあえず、出頭までは少し日があるみたいだから、クーリーやキルベガンさんやターコネルさんとも話し合いをしてはいかが?」


「キルベガンさん、スキルを発動して貰えますか?」

「おう。任せとけ。兄ちゃんとのタイミングも、だいぶ掴めてきたな」

「そうですね。餅つきしてるみたいに阿吽の呼吸ですね」

「モチツキ? なんだそりゃ?」

「いえ、なんでもないです」

「はわはわふが」

「あ、カネマラさんは今は喋らないでくださいね。ブラケットが舌について取れなくなっても知りませんよ」

「で、奴隷くん、あんたに加えて、あたしと、おっさんと、タコちゃんの合計4人で出頭すればいいのかい?」

「そうですね。最低メンバーはそうなるでしょう」

「ぎる、ぎる、ギルド長は、い、い、いなくてもいいでしょうか?」

「命に関わることが確実なら、いない方がいいでしょうね。でも、まずは冷静になって、パターン整理をする必要がありそうです」

「パターンだって? 兄ちゃん、例えばどんなパターンだ?」

「最悪のパターンは、歯科治療が人心を惑わす黒魔術だとかの理由で全員処刑されるパターンですかね…」

「ははは! 奴隷くん、黒魔術だって? いつの時代だと思ってるんだよ」

「あ、そういう感じなんですね。でも、スキルの誤った使い方で人に危害を加えて、処刑される人とかはいないんですか?」

「それはいる」

「あ、それはいるんですね。やっぱり」

「国民の全スキルを国が把握できていれば、要注意人物なんかももっと取り締まれるんだろうけれどね。過去に失敗してるんだよね」

「その話はミドルトンさんからも聞きましたね。クーリーさんやキルベガンさんは、スキル内容の提出に応じたんですか?」

「もちろん、あたしはちゃんと報告したよ。それで商売してるんだからね。ね? おっさん」

「お、俺は…」

「俺は? おっさん、正直に報告しなかったの?」

「ご…ゴホン!」

「しかたねぇなあ…。タコちゃんは? スキルはないの?」

「わ、わた、わたしは、すき、スキルはありません…」

「そっか。じゃあなおさら大丈夫だ。まあ、だから、黒魔術とかの理由で処罰される事はないけれど、歯科治療が得体のしれないスキルだとして処罰される可能性はあるかな。でも、人に危害を加えていないじゃん? それに、手紙の文面からすると、国王は、あたしたちが何をやっているかを一応理解しているみたいじゃん。だから、いきなり捕まったり、殺される事はないんじゃないかなあ…」

「なるほど、確かにそうですね。となると、逆に歯科治療の内容について聴取を受ける可能性の方が高いか…。もし、止めさせるだけなら、わざわざ出頭させる必要はないですからね…」

「そ、そう、そうなると、わ、悪いお話では、な、ないかもしれないですね」

「ええ。もし、悪い話でないのであれば、ギルド長には一緒に来てもらった方がよさそうですね」

「あのオバチャンも呼ぶの? ああいう性格の人、苦手なんだよなぁ~」

「はがふわふが」

「あ、カネマラさんはまだ喋らないでくださいね」

「床屋の姉ちゃん、俺も、ギルド長には来てもらったほうがいいと思う。うまくすれば、一儲けできるかもしれないからな」

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