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第5章:歯科矯正具をつけた美少女に僕は別に興奮したりしない(第2話)

「とりあえず、これで全部くっついたな…」

「ええ、大丈夫そうです。お疲れ様でした」

「それにしても、これを付けるのに、何回も長椅子を回転させる事になるとは思わなかったぜ」

「陽の光が一番入る角度にしたかったですからね。これは無影灯があれば解決できるんだけれどな…。ターコネルさん、また設計の相談をさせてくださいね」

「なに、何を作るのか、わ、わか、わかっていませんが、ご、ご協力します」

「さて、では、ブラケットにワイヤーを噛ませて行きますか…」

「なんだ? まだ作業は終わりじゃないのか? 兄ちゃん」

「どちらかというとこれからが本番です。ブラケットをつけただけでは矯正にならないですからね。ワイヤーを使って、長い時間をかけて歯列を強制的に動かしてやるんです。歯根吸収や退縮のリスクがあるから、慣れない環境ではできるだけ慎重に様子を見ながら治療をしていきたいですね。まあ、ターコネルさんの歯並びであれば、そこまで気にする必要はないかもしれないですが…」

「要するに、その針金で歯を縛って形を変えていく、っていう事だな?」

「まあ、そういう事ですね。じゃあやっていきましょう。まず、この太い方のワイヤーをブラケットに嵌め込んでいって…それから、この細い方をブラケットの出っ張りにクルクルと巻いて固定していきます。はい、これで1つ終わり」

「これを全部か?」

「全部です。ワイヤー自体は、月1回くらいの頻度で交換をします。本当は矯正が進むにつれてワイヤーを太くしていきたいんですが、現状では仕方ないでしょうね」

「そ、そうか…なかなかに大変な作業なんだな」

「ターコネルさんの矯正については、キルベガンさんが次に活躍するのは、ブラケットを外す時になると思いますが…。今後、多くの人を治療するとなると、ちょっと厄介ですね」

「厄介? それはなんでだ?」

「キルベガンさんにお願いしたいのは、主にブラケットの取り付けと、銀歯のインレーやクラウンの取り付けです。全ての治療にキルベガンさんに立ち会って貰わなければならなくなります。麻酔役のクーリーさんもそうですが…」

「なるほどそいつは確かに厄介だな。本業の鍛冶屋をやっている時間がなくなっちまう」

「ううん…。どうしたものかな。同じスキルを持った人が複数人いれば、せめて当番制にできるんだけれどな」

「し、しか、シカイさん。ひつ、必要なメンバーで、ち、チームを組んで仕事をするというのは、どう、どうでしょうか?」

「チーム…というと?」

「は、は、歯の悩みをかか、抱えた人は、こ、この街だけでも、かぞ、数え切れないくらい、い、いま、います。だ、だか、だから、チームで歯の治療の、しょ、しょ、商売をすれば…。ゆ、唯一無二の技術ですから、そこ、そこそこのおか、お金をとっても、だ、大丈夫だと思います」

「ははあ…。なるほど、チームで歯科医院を開業して、そこでの儲けで、各自の本業以上に稼げれば、当面はうまくいきそうですね」

「お、おいおい。俺は、俺の鍛冶屋をやめる気はねえよ? あんな工房でも、それなりの荒波を乗り越えて今があるんだからな」

(それは共感できるな…。現代の僕の歯科だって、開業までには色々あったからな…。日守くんは元気にしているだろうか…)

「まあ、でも、検討はしてみましょう。ターコネルさんの言う通り、いまここに揃いつつある技術は、下手をするとこの世界で唯一無二の可能性がありますからね。ギルド長にも相談してみましょう」


「株式会社…だと?」

「ええ、この国に、その仕組ありませんでしょうか? 要するに、スタートアップ企業をやりたいんです」

「すまないが、よく理解ができない。奴隷氏が何をしたいのか、イチから説明してくれるか?」

「そうですね…。まず、ギルド長の技術や、このギルドで作れる歯科治療用具は、少なくともこの国では、唯一です。そして、用具だけではまかなえないような治療についても特殊スキルを持ったメンバーを探し出す事ができ始めています。レントゲンがまだだけれど…。そして、僕の治療技術も、唯一だと言えます」

「それはなんとなく解る。お前が、他に類を見ない試みをしているのは、一緒にやっているから承知している」

「ありがとうございます。で、これはターコネルさんが提案してくれたんですが、せっかくそんな希少価値の高い技術やスキルが集まっているのだから、歯科医が開業してみようかと…」

「歯科医…だと?」

「歯専門の医院です。患者を広く集めて、治療代をとる」

「なるほど、それはいい考えだ。ようやく金になる話が出てきたな。ここまで金は出ていくばかりだったからな。特に、あの機械と鏡だ」

「ええ、やっとです。で、歯の専門医院なんて他にないから、かなり儲けられると思うんです。僕たちはこれで、安定的な収入を…もしかしたら、大金を手にする事ができるかもしれません。でも、ギルド長はどうでしょう? どうやって儲けますか?」

「言うじゃないか。少なくとも、その医院に専門の治療道具を卸させてもらう事になるだろうな。あまりガメツイ事は言いたくないが、医院をギルドの配下組織にして、収益の一部を料率として収めてもらえたら文句はない」

「さすがですね。でも、医院をギルド配下にするのは賛成できません。医院側にメリットがないですからね」

「だが、それではギルドが投資した分を回収できなくなってしまう。少なくとも、その分は支払ってもらうことになるな」

「ええ、それはそのとおりだと思います。で、ここからが提案なのですが…ギルドとして投資して頂いた分を、僕たちは株式、つまり、経営権の一部で支払います」

「経営権の一部だと?」

「そうです。これには、少なくとも2つのメリットがあります。ひとつは、ギルドが医院の運営に口出しができること…といっても、株主総会での議決になりますが。で、もうひとつは、医院をギルド配下にして収益の料率で商売するよりも、多くの儲けを手にする事ができる可能性があります」

「よく理解できない。それはなぜだ?」

「株式は変動相場です。医院の、会社としての価値が高まれば、株式の価格も上がっていきます。金になる事が解っていれば、より多くのお金で医院の株式を買いたい人は、必ず出てきますからね。で、ギルドはそのまま株式を持ち続けてもいいし、充分価値が上がったタイミングで売却してもOKです。配当もお支払いしますしね」

「そういう事か・・・。しかし、奴隷氏の医院1つだけで、それは機能するのか?」

「株式の意味が多くの人に理解されれば、1社でも機能はすると思いますが、これを契機に会社組織が増えていくといいですね」

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