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第5章:歯科矯正具をつけた美少女に僕は別に興奮したりしない(第1話)

「あの、もう一度、やって見せて貰えますか?」

「いいとも。よく見てろよ。例えば、このハンマーを、この金床の横につける。磁石じゃないから、当然、手を放すと落ちる。ところがだ。俺がここでチチンプイプイとやれば…おら、どうよ」

「おお~…。くっつきましたね」

「お嬢ちゃん、これを外してみてくんな」

「は、は、はい。や、やってみますね。う、うん、うんしょっと…。んんんんんっ! えいっ! ……はあっ! はあ! はあ! …だ、だ、だめみたいです。わ、わた、わたしの力じゃ…」

「じゃあ、僕がやってみましょうか。よっと…。おお、これは凄いですね。勢いをつけて体重をかけているのに全く動かない。金床の方が動いてしまって、くっついたハンマーはびくともしない。ええっと…キルベガンさん、なにかバールのような物はありますか?」

「バールのようなもの? ああ、これでいいか?」

「いいですね。まさにこれは、バールのような物ですね。じゃあ、これを使って、テコの原理でハンマーを外すと…ああっ!」

「おいおい、ハンマーの柄の方が曲がっちまったじゃないか」

「…これは想像以上の接着力ですね。では、外してみて貰えますか?」

「いいともよ。俺がここで、キュアップラパパとやれば…」

「あ…お、おち、落ちました。は、外れましたね」

「キルベガンさん、あなたのスキルがよく理解できました。接着と脱着を任意に行える。これはまさに、求めていたスキルです」

「そ、そうなのか? 改めてそう言われると、なんだか照れるなあ…」

「ちなみに、つけたり外したりする時に呪文みたいな言葉を唱えてらっしゃいましたが、このスキルには呪文が必要なのですか?」

「呪文? いや、何も言う必要はない。あれは俺の趣味だ」

「趣味…ですか。わかりました。じゃあ、次の質問です。このスキルは、どんな物質どうしでも有効なんですか?」

「なんでもできる、って訳じゃねえな。硬ければ硬いほど、やりやすい。例えば、水とかミルクみたいな液体に接着する事は、ほとんどできねえな。あと、砂とか小麦粉みたいな、粉状の物も苦手だ。全くくっつけらない訳じゃないけどさ」

「ああ、なるほどそうですか。ちなみに、接着の強さは変えられるんですか?」

「ある程度はな。さっきは、ほぼMAXの強さでやったけどな」

「ええ、全く歯が立ちませんでした。素晴らしいスキルです」

「し、しか、シカイさん、き、き、きる、キルベガンさんのこのスキルで、も、もし、もしかして、矯正と詰め物の両方が、か、かい、解決しませんか?」

「その通りだよ、ターコネルさん。ドリルが完成するまで虫歯治療はできないけれど、今そろっている道具で、歯科矯正は始められると思いますよ」


「おい、奴隷の兄ちゃん。屋外でやるのか?」

「天気がいいですからね」

「こんな長椅子の上でか?」

「ベッドを外に持ち出す訳には行かないですからね。毛布を敷いて、枕を置けば、臨時のユニットチェアになるでしょう。おっ、ターコネルさんが走ってきますよ」

「し、しか、シカイさん、ぎ、ぎる、ギルド長から、ど、道具一式と、き、きょ、矯正に必要な用具を、あ、あず、預かって来ました」

「ありがとう。道具はこれだけあれば大丈夫ですね。あと…いいですね。マルチブラケットとワイヤーも注文通りですね。マルチブラケットは…これは銀か…。口の中を切らないように、面取りしてありますね。大変だったでしょうに。で、ワイヤーは銅線ね。加工のしやすさと、錆びにくさからすればベストチョイスなんでしょうが、そこそこ高価な施術になりますね…。銅は強度が足りるかな…。(銀は、銀歯に使うパラジウムほどではないがイオン化傾向が低く錆びづらい。銅もステンレス鋼と同等に錆びづらい)」

「おいおい、兄ちゃん、お外で呑気にヒゲ剃りするとは訳が違うんだぜ? 大丈夫なんだろうな」

「とりあえず、やってみるしかないですね」

「こ、ここ、ここに、よ、横になればいいですか?」

「ええ、横になってください。本当にターコネルさんが実験台みたいになってしまいますが…」

「だ、だい、大丈夫です。し、しか、シカイさんに協力ができ、できるなら…。そ、それに、わ、わたしの言葉も…」

「そうですね。でも、あまり期待しないで下さいね。過度に期待すると、裏切られた時がつらいですから」

「は、はい…。わか、わかりました」

「さて…と。ニトリル手袋でもあればよかったですが、さすがに革の手袋で、という訳にも行きませんので、ターコネルさん謹製のエタノールを活用しながら、やっていきましょう。まず、僕の手を充分に消毒して…。それから、エタノールを染み込ませた布で歯を磨いていきましょう。口をあけて貰えますか? できれば、陽の光で口の中がよく見えるように」

「あ、あ~ん」

「はい、上手ですよ。じゃあ、磨いて行きますね~。ターコネルさんは、比較的きれいな歯ですね。虫歯も…C1が何本かありそうだけれど、今の所大丈夫そうだ。次に、フロスを当てていきましょうか。ナイロンがないので、絹糸のフロスです。多分、力をかけすぎるとすぐに切れると思うので、ゆっくりやりますね…」

「そ、それって大丈夫なのか? 歯と歯の隙間に糸を通すなんてよ…。おふくろの刺繍よりも危なっかしいぜ。あ、ほら、血が滲んできたぞ」

「あ、キルベガンさん、スミマセン、水の入った水差しと、コップと、吐き出し用のタライを持ってきて貰えますか? 用意するのを忘れてました」

「あ、ああ、そうだよな。待ってな」

「よし、OKです。水か来る前に、ええと…。あった、このミラーで歯の裏側と奥も確認しますね…。っと思ったけれど、よく見えないや。よく磨かれた銅製だけれど、ちゃんとした鏡じゃないし、そもそも…陽の光をうまく反射できないな…」

「ぎ、ギル、ギルド長さんが、ちゃん、ちゃんとした鏡も、よ、よう、用意してるって言ってましたよ。で、でも、すご、すごく高くなっちゃうから、もう、儲からなかったら、しか、シカイさんに請求するって…。えへへっ」

「請求するならミドルトンさんにして欲しいですね。彼には、いざとなったら国というスポンサーもいるでしょうから。さて…じゃあ、このスケーラーという器具を使って、歯石を削って行きましょうかね…」

「しせ、しせき? は、歯に、石があるんですか?」

「歯磨きをする習慣がないと、歯の裏とかにプラークが石のようにこびりつくんです。はは、これは取りがいがありますね」

「おおい、持ってきたぞ。これでいいか?」

「はい、ありがとうございます。長椅子の横に置いてください。さあターコネルさん、上体だけ起こして、一旦口をすすいでください。その後、エタノールでも同じ様にすすいでくださいね」

「…ん…っ! これ、これ、す、すごく沁みます…。いた、痛い…です…」

「ははは。エタノールで口をすすいだのは初めてでしたか。やはりヨウ素が欲しいですね」

「さて…本当はマルチブラケットを装着する前に、歯にシリコンポイント(表面を研磨する器具)を当てたいところではあるけれど、ここはキルベガンさんのスキルをあてにしましょうか」

「おっ? ついに俺の出番か?」

「はい、俺の出番です。いいですか? 僕が、今…ほら、こうやって、歯の上に、インクで印をつけた場所に、これからマルチブラケット…これです。この小さな器具を、ピンセットで当てていきます。これを接着していきます」

「こんな小さなモノを? まさか、全部の歯にって言うんじゃないだろうな」

「今回は、全部の歯にやります。大丈夫ですか? 個数が多いと、体力的にキツイとかあるんですか?」

「いや、このスキルで体力を消耗する事はないが…。なかなか大変な治療なんだな」

「そうですね。じゃあ、簡単な前歯からやっていきましょうか。僕がピンセットで…位置決めをしますので、合図をしたら、スキルを使ってください。いいですか…はいっ」

「チンカラホイ!」

「…おお、いい具合ですね。接着できました。ちなみに、一回外してみましょうか。お願いできますか?」

「マハリクマハリタ!」

「…なんか、キルベガンさんみたいな強面の人が呪文を口にするのは…」

「な、なんだよ。気に入ってるんだよ」

「えへへ…か、かわ、かわいいですよ」

「おら、兄ちゃん、嬢ちゃんはちゃんと解ってくれている」

「はいはい、よかったですね。ふふ。…っと、ちゃんと外れましたね。痕も残っていない。う~ん。これは本当に便利なスキルだ。CRでも光重合機で数秒は接着にかかるのに…。現代の歯科医療の現場にも欲しい…」

「ブツブツ言ってねえで、どんどんやろうぜ。沢山あるんだろう?」

「そうでしたそうでした。じゃあ、どんどん合図しますので、お願いしますね」

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