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第4章:足踏み式ドリルを開発した少女も前歯は噛み合っていない(第3話)

「今回の奴隷氏の依頼で、わがギルドの構成員の加工技術はかなり向上している。その事については感謝を伝えておきたい」

「スミマセンね、ギルド長の手を直接煩わせてしまって。これが…足踏み式ドリルの部材ですか…」

「複数の工場に部材ごとに発注した。丁度、ギルド構成員の鍛冶屋から届いたところだ。これから自分が組み立てていく。設計者であるターコネルの協力の元でな」

「ちゃ、ちゃん、ちゃんと動くと、い、いいんですが…」

「ギルド長さん、部材を手にとって見てもいいですか?」

「もちろんだ。なかなかの精度だろう?」

「ああ、ハンドルもプーリーも鋳物なんですね。面取りもしっかりされているし…うん、これなら、組付け精度も悪くなさそうですね。ちゃんと油を差せば…」

「自分が厳選した鍛冶職人に作らせたからな。嵌合については自分がスキルを使ってあらかじめ精度を確認した上、必要に応じてヤスリがけしてから組み付けるから、かつてない精度で組み上げる事ができると思う。小さな歯を削るためには、そのくらいの精度が必要なんだろう? 奴隷氏よ」

「え、ええ。少しでもドリルの回転軸がブレると、細かな作業ができないですから、助かります」

「先端のドリルの刃も鋳物で複数種類揃えた。あとで確認しておいてほしい」

(さすがに、ダイヤモンド粒子電着のドリルは無理だったけれど、鋳物であればある程度の硬さにも耐えられるだろうな…)

「そ、それ、それで、し、シカイさん、れ、れい、例の課題は、か、解決できそうなんですか?」

「う~ん、それが、駄目ですね。強力な接着力がありながら、あとから外す事もできる素材が見つけられないんです。ニカワも石膏も駄目ですね…。マルチブラケットにしろ、詰め物にしろ、この問題が解決できればかなりの治療ができるようになるんですが…。あとはレントゲンを撮りたいんですが、こればっかりは電気の供給がないとね…」

「れ、れんとげん…」

「接着か…。釘で打ち付けては駄目なのか?」

「釘ですか? 虫ピンくらい小さくしたとしても、歯に打ち付けるのは現実的ではないですね…。歯が割れてしまいます」

「そうか。いいアイデアだと思ったのだがな。釘の種類は、うちのギルドではかなり豊富に用意できるぞ。ほら、この部材は、鉄の部品と木材を釘で打ち付けて固定している。見事なものだろう」

「確かに、しっかりと固定できていますね。それに、ここの2つの鉄の部品どうしの連結も…。ん? この鉄どうしの接合は、どうなっているんだ?」

「どうした? 何か気になるか?」

「今、渡して頂いた部品の、この部分です。ここは鋳物で一体成型ではないですよね。鉄の部品と鉄の部品が接合されていますが…溶接ではなさそうです。ビードがないし、そもそも電気がないこの世界で溶接は不可能…。となると、接着剤、あるいは継ぎ手…にしては、あまりにもガッチリ組付けされている。これは一体…。こんな技術、現代日本にも存在しないぞ??」

「ああ、それか。それは自分にも解らん。その部材を組んだ鍛冶屋のスキルだろうな」

「スキル…なるほど。そういうのもあるのか…。その鍛冶屋を紹介していただく事はできますか?」

「もちろん、構わんが…。なかなか気難しい男だぞ?」


「へっ。メスガキと奴隷が、俺に何の用だ」

「ええと、あなたがキルベガンさんでしょうか?」

「さあな。あんたらの用件次第じゃねえかな」

(し、しか、シカイさん…こ、こわ、怖い人みたいですね。わ、わた、わたしも同行して、よ、よかったのでしょうか?)

(奴隷の僕ひとりじゃ口も利いてくれなかったでしょうから、ターコネルさんが一緒に来てくれて助かってますよ)

「ええと、ギルド長からの紹介で、やって参りました。ギルドからキルベガンさんに依頼した、機械部品の接合があまりにもよかったので…」

「へえ。俺が作った部品の話か。あの女、俺の技術をようやく認めやがったのか。それとも、クレームか?」

「いえ、クレームではないんです。部材組付けの技術についてお伺いしたくって…」

「なんだ。技術を盗みに来たのか。あんた、同業の奴隷か? だとしたら同じギルドに所属しているとしても、教える事は何もないぜ」

「同業ではありませんし、技術を盗もうなんて思ってもいませんよ。僕は、あの部材の発注主…とでも言いましょうか」

「奴隷身分のあんたが発注主? そりゃ、どういう理屈だ?」

「正確には、僕の主人が発注主になります…かね。なので、僕には部材について質問をする権利がある筈です」

「そうかい。言いたいことは解るが、俺の技術は唯一無二だ。他人に教える事は商売上の大きなリスクだ。そのリスクを犯してまで、あんたに教えるメリットがあるのか? 大体、あの機械は何なんだ? 何に使うつもりなんだ?」

「あの機械は、歯を治療するための道具です。虫歯を治療します」

「虫歯…だと? 新手の抜歯機械か? にしてはかなり大掛かりだな」

「抜歯ではありません。あの機械で、歯を削るんです。初期の虫歯であれば、抜歯よりも、削って歯を残した方がいい訳です」

「歯を…削るだと? あんた、何者だ? 床屋のギルドにでも抱えられている奴隷なのか?」

「そうではないのですが…。ちょっと人よりも歯の治療について詳しいです」

「歯に詳しい…か。それなら、相談に乗って欲しいんだが…」

「キルベガンさんの歯の治療ですか? 見た感じ、歯並びもそんなに悪くないようですが…」

「俺じゃないんだ。娘の歯を診て欲しいんだが…」

「娘さん…ですか? いいですよ」

「そうか。ちょっと待っていてくれ。連れてくる」

(どこの親も、娘の歯について悩みを抱えているものだな…)

「す、スキルについて、お、おし、教えて貰えそうでしょうか?」

「…さあ、娘さんの歯の状況次第かもしれないですね」

「おい、連れてきた。診てやってくれ」

「あ…か、かわ、かわいい女の子ですね」

「6歳だ。丁度、乳歯から生え変わりの時期なんだが…。おい、口を開けて、この人に歯を見せるんだ」

「うん。あ~ん」

「なかなかお利口な娘さんですね。…ああ、なるほどそうですか。下前歯の二重歯列(抜ける前の乳歯と、生えかけの永久歯が重なっている状態)ですね」

「特に痛がっているわけじゃないんだが…。俺の知り合いの娘で、同じ生え方をしたのがいるんだが…年頃になっても、どうも歯並びが悪く、ずっと歯の悩みを抱えて生きているっていうんだよ。そうなるのは不憫でな…。どうにかならんか?」

(カネマラさんがそんな感じか…)

「乳歯を抜去(抜歯)してしまうのが一番ですね。そのくらいの治療なら、やって差し上げますよ」

「やっぱり、抜くってんだよな…。子供ならそんなに痛くないのか? 抜歯した後に熱にうなされて死んだやつを知ってる。そうでなくても、抜歯の痛みに耐えられず気絶したやつ、顎の骨が変形して一生後悔したやつ、抜歯が怖くて自殺したやつまでいる。そこまでのリスクを負ってまで、治してやるべきなんだろうか…」

(この世界の抜歯に対する恐怖心とは、相当なものだな…)

「大丈夫です。今、僕たちが進めようとしているのは、痛みができるだけなくて、それに安全な歯科治療ですから」

「そ、そうなのか…。よく解らんが、最新の治療法なんだな?」

「そうですね。でも、それには、キルベガンさん、あなたの技術が必要になるかもしれないんです」

「そうか解った。娘の歯が治療できるなら、協力は惜しまん」

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