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第4章:足踏み式ドリルを開発した少女も前歯は噛み合っていない(第1話)

「悪いが、私は次の用件があるから、ここまでだ。日没前までには帰ってこいよ。質素だが食事を用意する」

「あれ? 僕をひとりにして、問題ありませんか? それに、奴隷の立場なのに僕の用件で単独行動する事が許されますか?」

「お前がここに残って錬金術師と話をすることが、カネマラの歯の治療を目的としている限り、問題ない。なぜなら、それは私の用件でもあるからだ。私がお前を奴隷として使役する理由は当面、それ以外にない」

「解りました。では、カネマラさんのために、単独でここに残って情報収集をさせて頂きます」

「うむ。頼んだ。では」

「…い、いってしま、しまいましたね…」

「では、ターコネルさん、あなたの研究室? に案内してもらえますか」

「え、ええ。といっても、に、にも、荷物は、こ、これで全部なんですけれどね」

(そうか、追い出されるところだったから、部屋は伽藍堂か)

「まあいいや、立ち話も何だから、案内をお願いします」

「わ、わか、わかりました。と、ところで、あ、あな、あなたのお名前は、な、なんというんですか?」

「ここではシカイと呼ばれています」

「し、シカイ…さん…。わ、わた、わたし…こ、言葉がうまく、は、話せなくて…」

「うん。でも、ちゃんと僕には聞こえているので、気にしなくていいですよ」

「あ、あ、あり、ありがとう…」

「…ん? ちょっと失礼…口をあけて、歯を見せてもらってもいいですか?」

「は、歯ですか?」

「ええ、ちょっと気になって」

「…は、は、はずかしいな…。あ、あ~ん」

「…そうか。ターコネルさんの歯並びは、前歯が噛み合っていないですね。もしかすると、吃音はこれが要因かもしれないな…」

「そ、それ、それは、ど、どういう事ですか?」

「ん~…。吃音と歯並びの関係性は証明されていないのだけれど、歯並びが悪い事で発音がしづらくなって、それが元で幼少期に人にバカにされたり、親や先生に注意されたりしてトラウマになると、そのまま吃音に移行してしまう事があるから、もしかすると…と思って」

「お、おや、親や…友達に…」

「あ、ああ、ごめんなさい。つらいことを思い出させてしまったら」

「い、い、いえ…大丈夫です」

(もともと吃音のない児童に対して、お前は吃音だ、と故意に言い聞かせ、何度も叱りつけると、本当に吃音を生じるという非人道的な人体実験が、20世紀初頭に行われていた、という話をどこかで聞いた記憶があるんだ。この実験結果は後に否定されたそうだけれど、この少女の場合だって、例外じゃないかもしれない。もしかすると、歯並びを治してやる事ができれば、あるいは…。この国…というか、時代の少女はみんな、歯並びのせいで、せっかくの美貌を大きく損失している気がするな…)


「ど、ど、どうぞ、こ、この、この部屋です」

「ありがとうございます」

(狭いけれど、机もベッドもあって、そこそこ快適そうだな…。窓は小さい。実験室は他にあるのだろうな)

「ほ、ほん、本当に、あ、あり、ありがとうございました。こ、この、この部屋、き、気に入っていたもので…」

「それは良かった」

「な、な、何を、ご、ご覧になりたいですか?」

「歯の治療をするのに必要な薬品を揃えたいんです。今の所、消毒薬と麻酔薬についてはなんとかなりそうだけれど…。日常の洗口には、できればヨウ素も使いたいんですよね。あとは、歯磨き粉か…」

「れ、れ、レシピが、わ、わかれば、つく、作れるかも…」

「ヨウ素は海藻から作れるので、レシピは解ると思いますが…歯磨き粉はどうしたものかな」

「は、はみ、はみがきこ…」

「この国には歯を磨く習慣がないみたいだから、解らないかもしれないけれど…。研磨剤、発泡剤、香料をメインとした薬剤の事なんです。湿潤剤を加えてフッ素まで入れられたら完璧なんですが…。そもそも、まず歯ブラシの生産が先ですね」

「け、けん、研磨剤でしたら、わ、わた、わたしのノートに、ま、前に考えた時の、め、めも、メモがあります」

「え?」

「わ、わた、わたしたち錬金術師は、せ、専用道具を、つ、作る時に、け、けん、研磨をすることがあるものですから。ど、どう、どうぞ、このスケッチブックです」

「ありがとうございます」

(おお、なかなか細かい字でびっしり書きなぐってあるぞ…。そうか、金属の表面を研磨するにあたって、何の材料がいいか、を比較実験したメモか…。これは使えるかもしれない。胡粉(牡蠣の貝殻をパウダー状に砕いたもの)かあ…。これとミントとかのハーブを混ぜ合わせて粉末状にしたものを、使うたびに水で練ってから歯ブラシにつけて磨けば、ホワイトニング効果も期待できそうだな…)

「ん? このスケッチは…」

「ど、どれ、どれですか?」

「ここに、機械のスケッチと、設計図みたいなものが…これはもしかして…足踏みミシン…?」

「こ、これ、これは、た、たい、大変な材料を、く、砕いたり、け、けず、削り取る作業を、じ、自動にする、きか、機械です」

(そうか、錬金術師だと、色々な材料を砕いたり溶かしたりするのか。この少女の腕っぷしでは、確かに困難だ)

「ターコネルさんが考えたんですか? それとも、こういう動力を使った機械は既に存在するんでしょうか?」

「わ、わた、わたしが、かん、考えました。ま、まだ、まだ、この国には、こ、こういった機械はありません」

「足踏みでプーリーに噛ませたベルトを回転させて…その動力を歯車やベルトを使って手許のニードルを回転させる…か。…これって…つまり、足踏み式のドリルって事だよな…。もし、ギルド長の精度でこれを作る事ができたら…。そうか、その手があったのか!」

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