弟と、すれ違い。
始まりは
あたしが家に彼氏を連れてきた日からだった。
お母さんが冷やかす中、あたしの弟の優希だけは…
あたしたちに見向きもせず、無関心そうにあたしたちの空間に居座っていた。
そして、あたしたちがキスをしているところを、優希に目撃された。
そして、一言。
「気持ちわりぃ」
彼氏は焦ってた。けど、あたしは焦るとかの前に…びっくりしていた。
あの優希が、あたしたちのことを見て気持ち悪いと言った。
あんなに、あたしと仲がよかった優希が――――。
あたしを、軽蔑した。
そう。それからなんだ。
お母さんとお父さんは共働き。
お父さんは夜遅くに帰って来る。
お母さんは…たまに、休みがあるって感じで。
優希は、そんな両親のいない隙を狙って、毎日女の子を連れてくる。
しかも、日替わりメニュー。
あたしが居ようと居まいと、優希は構わず行為をする。
あたしは、優希にとっては空気のような存在。
あたしと優希の部屋の中から、官能的な女の声。
やめてよ。それ、あたしの部屋でもあるんだからさ…。
部屋、入れないし…。
部屋の前で立ち尽くしていると、ようやく声がやんだ。
そして、部屋の扉が開いた。
女は、眠っている。
…優希、あんたどれだけの経験者?
そう思いながらも、遠い目で優希を見つめる。
「盗み聞き?相変わらず、趣味悪いね。お前。」
ちょっと…実の姉に向かって、お前はないんじゃない?
なんて、言おうと思ってた。なのに、優希はあたしをじりじりと壁側へ追い詰めた。
背中に、固い感触。
もう、逃げられない。
「どう?盗聴した感想は。…あ、お前も俺にしてほしくなった?」
クスッと笑った優希は、いつもの無邪気でかわいい優希じゃなかった。
あたしと仲良く喋っているときの優希じゃない…。
これは、誰?
目の前にいる知らない男に、身震いがした。
「…っこんなの…優希じゃない…」
震えた声で言う。
優希は、更に顔を近づけてくる。
「うるせぇなぁ。口、ふさいじゃおっか。」
冷たい顔に、背筋が凍る。
そして、優希があたしに唇を押し付けてきた。
「―――――――っ!!!??」
思わず、優希を突き飛ばした。
「…っさいってぇ…!!」
あたしは、家を飛び出した。
弟が怖い。
優希じゃない。
じゃあ…あれは…一体、誰だったというんだろう。
認めたくなかった。
けど、優希は毎日女の子と遊ぶようになっちゃったんだ。
しかも、そのきっかけは多分あたし。
だって、あのときの優希怖かったもん。
彼氏連れてきただけなのに…。
あんな、無表情には耐えられないよ。
次の日、あたしは彼氏に別れを告げた。
何でだろう?理由なんて、分からない。
けど、思ったよりはつらくなかったな…。
きっと、思ってるよりも好きじゃなかったんだ。
そう、自分に言い聞かせる。
フッたのは、あたしが彼のことを好きじゃないから。
…なんて。
こんなのは、あたしの勝手な建前で。
本当は、優希の中のあたしの空気を取り戻したかったから。
ただ、それだけ。
家に帰って、早速報告してみようと思った。
「ただいま…。」
あ、そっか。今日はお母さんの休みの日だから、優希は女の子を連れてきてないんだった。
恐る恐る、部屋を開けた。
すると、優希は珍しく部屋にいた。
「…あの…ただいま。」
優希は、振り向きもせずに、ベッドに寝転がった。
あたしはため息をついたが、諦めなかった。
「あの…あのね?優希…。今日ね、あたし…彼氏と別れたんだぁ…。」
優希の反応はない。
「…ごめん。つまんないよねぇー。」
少し笑ってみた。けど、その表情に矛盾するものが目から流れ落ちた。
「…は?」
やっと振り向いてくれたんだ。
優希は、泣いているあたしに気が付いた。
「…何泣いてんの?」
「…優希…っあたしのこと…嫌いになった?」
「何いってんの、まじで。いみわかんねぇ」
優希がめんどくさそうに頭をかく。
「だって…最近、優希が冷たくて…寂しくて…。」
優希は、一歩一歩、あたしのほうへ歩んでくる。
そして、泣いているあたしを下から覗き込んだ。
「…お前が、彼氏なんて連れてくるからだろ。しかも、人の部屋でいちゃいちゃしやがって…。」
優希はため息をつきながらも、話を続ける。
「俺は、お前の百倍返しをしただけ。どぉ?俺とヤった女に嫉妬した?」
あたしは無言のまま。固まったまま、動かない。いや、動けない。
「少なくとも、俺は…お前の彼氏に嫉妬したよ。俺、お前のことが好きだから。」
そう言うと、優希はあたしを抱き締めた。
あたしは、もじもじしながらも優希の背中に手を回した。
「あたしは…わかんない。けど、とりあえず…」
あたしは、優希と顔を合わせた。優希もあたしを見る。
「優希を手放したくないことは、確か。」
優希は、元のあの無邪気でかわいい笑顔を見せてくれた。