輸送
送られます
夜の三時頃だろうか、トイレに行きたかった訳でもなく目が覚めた。眠りが浅かったのだろうか。電気を消してたため、部屋は真っ暗だ。たしか、この辺にスイッチがあったはずだ...?
無い。スイッチどころか本当に何も無い。床しかない。
というか、そもそもここは俺の部屋ではない。どこだよここ。帰ってきたのは確かに俺の部屋だったし、部屋に入ってから外に出てないから寝る前に何かあった確率はない。とはいえ、寝てる間になにかした確率なんてもっと無い。
もしかすると、これが世にいう拉致ってやつか?
いや、カッコよくなければ頭が良くも無い俺を拉致る人は居ないに決まってる。
「矢田さん聞こえますかー?」
突然知らない女の声がした。めちゃくちゃいい声してる。声優さんか?もしかして、ドッキリか!?
...な訳ない。有名でもないレスラーにドッキリして誰が得するだろうか。
「あのー、聞こえてたら反応ください。」
「聞こえてますよー。」
「気分は大丈夫ですか?」
目が覚めたら知らないところに居たのに、気分が良いはずは無い。そもそも、誰なんだこの人は。知り合いにこんな声の人は居ないし、知り合いでなくてもこんなにいい声の人は会ったことがない。
「返事して貰えますかー?」
「あっ、はい。大丈夫です。」
焦って本心とは違うことを言ってしまった。でも、大丈夫かと聞かれてYESと答えてしまうのは本能だから仕方ない。
「なら良かった。転送してると酔う人が稀に居るんですよ。」
ん?
「転送してるんですか?」
「してますよ。」
「私を?」
「そうです。貴方を。」
「どこに?」
「どこかの星に。」
なんかスケールデカくね?普通ドッキリなら監禁とか拉致とか人身売買とかでしょ。それなのに、星に転送なんて なろう系 かよ。
「ドッキリですか?」
テレビなら最悪のセリフだが、試合を控えてる身としてはこんな事せずに早く寝たいため、ここは終わらせにいく。
「いえ、ドッキリなんかじゃありませんよ。」
どうやら認めたくないらしい。なんて往生際が悪いのだろう。ならば、最終奥義だ。
「その証拠は?」
我ながら企画者泣かせの質問だ。俺だったら人選ミスだと後悔するだろう。
「転送している証拠にはなりませんが、あなたが地球外に居ることなら証明できますよ。」
こんどはスケールでかい事を証明しようとしてきた。どっかの壁に地球を写して「これが地球です」とか言うのだろうか。もしそうなら俺は止められてもその壁を触ってやる。
しかし、声は
「好きな方向に進んでみてください。ここは無限の空間なのでいくら歩いても壁にはぶつかりませんし、床の感覚は一切変わりません。」
と言ってきた。なんだよそれ。いろいろ思ったがとりあえず歩いた。
約1分経った。とりあえず、ホテルには居ないのだろうとは思った。端から端まで歩いて1分以上かかる程高級ホテルではないからだ。とはいえ、球場とかなら端まで3分はかかるだろう。
そうこう考えていると気が付けば五分ほど経っていた。真っ暗なのが変わらなければ、地面の感覚も変わらない。
だんだん怖くなってきたため、歩く速度を上げた 。でも、やはり何も変わらない。更に走り続けた。ここまで水溜まりや壁が恋しくなったことは無かったし、この先の人生で二度と感じないだろう。
そして、気がついた時には、さっきの同じ景色の同じ地面に体力がきれて倒れ込んでいた。持久力には自信があったため、かなりの時間走ってたと思われる。俺は確信せざるを得なかった。
ここは地球ではない。
「どうです?信じました?」
また声が聞こえた。俺は呼吸が整っていないため、頷くことしか出来なかった。
「信じて貰えたなら良かったです!それでは、あなたがこうなった理由に着いてお話しますね!」
この時の俺に会えるなら伝えたい。この先に待つ数々のめんどくさいことを。
ク〇ネコヤマトで異世界に行けるのかな。