ヒールレスラー
これは、202X年の世界に生きる1人のレスラーの話
プロレスとは鍛え抜いたものたちが己の肉体をぶつけ合い、より強い方を決める戦いである。
そんな世界に俺は身を置いている。
「ファイット!」
レフェリーの声が響く。俺の出る試合が始まった。対角線上には今日の敵がいる。会場の声援は相手の方が大きい。
でも、これは俺にとってむしろ好都合である。
俺は相手のペースに乗せられないように気を付けながらリング外へ誘い出す。 上手く乗せれたらチャンスだ。リングを囲う鉄柵めがけて相手を投げつける。そして、俺はリング下からパイプ椅子を取り出す。
「黒田が椅子を持って・・・叩きつけたー!」
解説席の近くでやったから、解説の声もよく聞こえた。会場からはブーイングが聞こえる。でも、これはいつもの事である。
俺は床に倒れる相手をよそにリングへ戻る。
「1 2 3 4」
おっと、場外カウントが始まった。うちの団体ではこれが20になるとリングアウト負けになる。これを聞いた相手はゆっくりと立ち上がり、フラ付きながらリングへ戻る。
そこを見逃さないのが俺。入った瞬間に相手を蹴って技のコンビネーションにはいる。
こんな技くらったら普通の人なら立てないだろう。でも、レスラーは立つ。だから、俺はもっと攻撃する。
いい感じに痛めつけたところでトドメと行こうか。俺は相手の首に腕をかけて反対の手でパンツを掴んで持ち上げる。このまま落とせば ブレンバスター であり、フィニッシュだ。...ただ、上手くいかないのがプロレスだ。
相手は上手く力を入れて、逆に俺を投げ飛ばす。マットに響いてめちゃくちゃ痛い。
そこからは相手の力強い攻撃をかなり喰らった。
でも、負けたくないから俺も反撃する。
そんなこんなあって、脳を揺らしまくって戦った決着の瞬間なんぞ俺は覚えてない。
ただ、俺が気がついたら時には、控え室で寝ていた。恐らく負けたなこれ。
俺はレスラーだ。さらに言えばヒールレスラーだ。ブーイングと罵声を浴びれてこそ一流であるヒールの世界。もちろん、俺が負けた方が喜ぶ客は多い。そんなこと100も承知だ。
でも、本音は勝って歓声も浴びてみたい。
たぶん、こんな迷いのせいで俺は調子が良くない。負け続けている。
その日、俺は久しぶりに泣いた。
さてどう続くのやら。