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吟遊詩人の日記  作者: 立川みどり
いとこ2
16/27

いとこ2・その1

この話は、第2部分の「いとこ」、第7部分の「王都の光と影・その3」を先に読んでいただいたほうがわかりやすいと思います。

ハウカダル共通暦三二二年感謝の月三日


 今夜、悪友たちに誘われて、初めての店に行った。で、飛び上がるほど驚いた。ホープがいたんだ、そこに。

 ホープに会ったのは一回だけ。あとは何回か手紙のやりとりをして、ムグを二回送っただけだ。

でも、ホープにまちがいない。印象の強い娘だったから、よく覚えているんだ。常連らしい客たちは「リリ」と呼んでるけど、こういう店では本名を使わないはず。

それに、目が合ったら、向こうもおれだと気づいたみたいで、ちょっとあせっているように見えた。

「歌ってくれ、リリ」

客たちにねだられて、彼女は歌いはじめた。

どう聴いたって、素人の歌じゃない。吟遊詩人顔負けの声だ。

それでホープだとはっきり確信した。以前に聴いたときより、さらに声に磨きがかかっている。

どういうことなんだ、これは?

いつホープはシグトゥーナに出てきていたんだ?

貧しい村や不運に見舞われて食べていけなくなった家では、娘を売ることもあると聞いたけど、売られたのか? 彼女の養父母はそんなことをする人に見えなかったけど。

それに、ホープの歌に合わせて踊っていた女の子は、養父母の実子として紹介された娘じゃないかな。ホープの義理の妹の顔、覚えていないんだけど。でも、彼女がホープを快く思っていないと感じたのは覚えている。その娘、同じような目でホープを見ていたんだ。

まあ、でも、その点については自信がないな。

ホープは美人だ。しかも、目立つ美人だ。美人でも、おとなしそうで目立たない娘と、華があって目立つ娘がいるけど、ホープは後者だ。そういう娘って、取り巻きとかもできやすいけど、妬まれやすくもあるからな。

両親の愛情を奪われた義妹がホープを妬んでいたのと同じように、たまたま店にいた娘が彼女に反感を持っているということはありうる。

だから、ホープの義妹とは別人かもしれないけど、でも、あの義妹のような気がするな。

 もしも義妹もいっしょだとすれば、姉妹そろって売られたか、出稼ぎに来たのか?

 あの一家に、何か深刻な事情が起こったのか?

いろいろ聞きたかったけど、ふたりは歌と踊りが終わると、奥に引っ込んでしまった。

 あわてて後を追いかけようとすると、店の主人に止められた。

「お客さん、あの娘たちは客をとらないんでさあ。そういう契約でしてね。ほかの娘にしてくだせえ」

そう聞いて、正直ほっとした。この店で最初に目にしたときから、ずっと心配していたのがまさにその点だったからだ。

「いや、おれはホープのいとこなんです。彼女に会って話をしたいだけなんですが」 

 そう言ったら、店の主人はすこし値踏みするようにしばらくこちらを見つめてから、チッチッと指を振った。

「どこであの娘の名前を聞いたのか知りませんがね。だまされませんぜ、お客さん。なにしろ、あの娘の兄だのいとこだの叔父だのってのが、いままでにざっと二十人はきましたからね」

 なるほど。たしかに、いとこのふりをするというのは、よくある姑息な手かもしれない。そういうやつは多いんだな。

「じゃあ、彼女に伝えてください。音楽学校にいるいとこのイスラをたずねてほしいと。困っていることとか、相談したいことがあったら、なんでも相談に乗るからと」

 店の主人はちょっと迷ったようすを見せてから、うなずいた。

「わかりました。そう伝えておきましょう」

たぶん、おれが本物のいとこかもしれないと考えたが、確信がもてなかったので、会わせないけれど伝言は伝えるという選択をしたのだろう。

 ホープのことは心配だけど、あの主人のようすからすると、ひどい扱いをされているというわけではなさそうだな。


この話はまだコピー本にしていない段階でこちらに掲載。サイト掲載前の小説ファイルがいくら探しても見当たらなくて、やむなくサイトのHTMLファイルをもとに、タグを消したりいろいろして掲載することにしました。なので、1回分が短いしょぼしょぼした連載になるかと思いますが、ご容赦。

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