無限生産
「さて、今日は錬金術で無限に物を出して儲けよう」
「はい、でも何を作るんですか?」
翌日、私はミアの家に行って、やりたいことを話し合っていた。
「問題はそこなんだよね。宝石とか、あまり高価なものだと作っても売るのが大変かなとは思う」
宝石商なら買ってくれるとは思うけど、一度に大量に持ち込んでも困られるか買いたたかれるような気もする。それに鑑定とかで時間もかかりそうだし、出来れば売る手間が少ないものが良かった。
「せっかくだし皆の役に立つようなものにしましょう」
「それだとやっぱりポーションかな。それにポーションだったら誰でも買うものだから売るのも楽だろうし」
宝石とかだといちいち宝石商に売りに行かないといけないし、武器や防具は店を構えて売った方がいいとされる。長く使うものなので信用を重んじるし、手入れなども店でしてくれるかららしい。
それに、無限に作れる以上は消耗品を作る方がいいような気もする。
「でもどこで売ります?」
そう聞かれて私は考える。人が多い大通りとかはすでに有力な商人が店を構えている。許可をとれば多分商売は出来るけど、一時的な資金稼ぎのために手続きを踏むのも面倒だ。人が多くて商人が大していないところとなると。
「街の門の外とか?」
「いいですね! 実はあそこでお店屋さんをするのが子供のころの憧れだったんです!」
一応街は城壁に囲まれており、夜になると門が閉まる。そのため、ちゃんとした店を出すと夜の間に魔物に襲われる可能性がなくはないため、昼間だけ門を出入りする人々に物を売る人々がわんさか現れる。それが憧れだったとは、可愛いな。
「じゃあせっかくだしそこに行こうか」
「はい!」
私たちは敷物とテント、看板に仕えそうな木の板を持って街の外に向かう。
ここ魔術都市アドリアは“魔の森”に向かう冒険者や研究に来る魔術師、さらに街規模もなかなか大きいため普通の旅人も多く、賑わっていた。
そんなアドリアの門の外に出ると、そこにはすでに先に商売に来ていた者たちが敷物だけ敷いて勝手に旅人相手に商売していた。
どこから持ってきたのかが怪しい武器を売る盗賊の下請けっぽい商人、凝った手作りの木彫りの熊を売るおばちゃん、似顔絵屋や占い師などまで千差万別だった。中にはちゃんとした商会がだしている出店も混ざってはいるが。
私たちはその中の一角に陣取ると、一応テントの中でポーションをまず百本分ほど精製する。ポーションは瓶に入れて保管すると場所をとるので、私たちは樽に入れて保管することにする。
そしてミアがきれいな字で『ポーション売ります』と木の板に文字を書く。そしてふと気づいて言う。
「そう言えば値段ってどうしましょう?」
一般的にポーション一本は銀貨一枚ぐらいだ。もちろん質や状況で前後はするが。
「銀貨一枚で二本分とかでいいんじゃない?」
元がただなので私も適当だった。こんなこと言ったら商人に怒られるが、定価で売れなかったら面倒だし。
ミアが看板に『なんと二本分で銀貨一枚!』と煽り文句を書き込む。そしてその看板をテントの前に置き、私たちは商売を始めた。
看板を出してすぐに、歩いてきた旅人の男たち三人がこちらを見てひそひそと話す。
「おい、ポーション二本で銀貨一枚って半額じゃねえか」
「え、何かの間違いじゃないか?」
「でも確かにそう書いてあるぞ」
「よし、行ってみるか」
男たちはこちらを歩いて来る。一人がおそるおそる尋ねた。
「本当にポーション二本で銀貨一枚なのか?」
「もちろんその通りですよ」
こんな露店で半額で売っていたら誰でも不安にはなるか。
「大丈夫か? 粗悪品だったりしないか?」
「そう言えばさっき俺魔物と戦ってダメージ受けたんだよ。とりあえず買ってみて、使ってみる。それから考えようぜ」
そう言って一人の男が私たちに銀貨と空のビンを差し出す。するとミアが樽からポーションを組んで男に渡す。
「お買い上げありがとうございます」
「おお、ありがとう。見たところ普通のようだが……お、普通のポーションだ」
男は無事体力が回復したのか、嬉しそうな声を上げる。
「本当か!? それなら足りない分全部ここで補充してこうぜ!」
「確かに、半額で売ってるところなんて初めて見たぜ!」
そう言って彼らはポーションの空きビンを十本と銀貨五枚を渡す。
おお、いきなり銀貨五枚(さっきのをいれれば六枚)を儲けた。私がお金をしまい、ミアがポーションを渡す。
「まいどありー!」
「いや、こちらこそ助かったぜ!」
「浮いた金で今日はぱーっと行こう!」
男たちは楽しそうに去っていく。そしてその様子を見た他の旅人や冒険者が次々と集まって来て、あっという間に列が出来た。
ポーションは一番基本的なアイテムだけあって国内に広く流通しており、そのため値段は割と均一化してきている。そのため、相場の半額というのは珍しいだろう、すぐに作った百本はなくなった。
そこで私は売っている最中に回復した魔力と残っていた魔力でまたポーションを作る。しかし街の中に話が広まったのか、列が伸びていき、だんだん魔力の回復量よりも売れるスピードの方が早くなっていく。
「疲れた……」
夕方ごろ、まだ通行人は大勢いたが、私の魔力切れにより店仕舞いになった。私は思わず敷物の上に倒れ込んで大きく伸びをする。魔力を限界まで使って、ほぼ間隔が空かないように接客するとさすがに疲れる。
「お疲れ様、エルナ」
そう言ってミアが飲み物を渡してくれる。私はそれを一気に飲み干した。
売れたのは合計872本だったので、銀貨436枚を稼いだことになる。ちなみに普通の朝食付きの宿で銀貨5枚ほど、食事屋で銀貨1枚払えばそこそこおいしいご飯が食べられるので結構な大金と言えるだろう。
「何と言うか、お金のことで悩んでいたのが馬鹿らしくなってきそうです」
「そうだね」
ちなみに途中から疲労困憊している私の横で、ミアは生き生きと接客をしていた。やはり人には向き不向きがあるのだろう。
「あ、せっかくですしこの辺のお店見て回りませんか?」
「いいよ」
確かに昔はミアとよく街のお店を冷かしたりしていたな、と懐かしく思いながら周りに出ている色んな露店を見て回る。私たちがポーションでぼろ儲けしていたのは知れ渡っていたため、羨望の眼差しで見られる。一日で銀貨436枚儲けるのはなかなか難しいだろう。
そんな中、ミアが怪しげな土産物を売っている店の前で足を止める。そして、敷物の上に置かれていた水色のブレスレットに目を留める。ただのブレスレットだけど、色んな形の石が繋がっていて少し可愛い。
「お、嬢ちゃんはこれがお気に入りかい?」
それに目ざとく気づいたおっちゃんが声を掛けてくる。
「これはこっちのピンクのやつとお揃いなんだ。せっかくだから二人で買っていかないか? 今なら二つで銀貨2枚だ」
私たちが儲けたせいか、安くしてくれる気はないようだった。
するとミアはちらっと私を見てすぐに目をそらす。
ふーん、これは「欲しい」でちらっと私を見て、「やっぱり恥ずかしい」でそらしたな。私はそんなミアについ意地悪をしてしまう。
「欲しいんなら買えばいいんじゃない?」
すでに儲けた銀貨の半分はミアに渡してある。
するとミアは少し頬を赤くして上目遣いで私を見る。
「あの、そうではなく……一緒に買いませんか、と」
可愛い。私は急に変な意地悪をしたことへの後悔に襲われる。
「分かった、一緒につけよう」
「やったあ」
ミアが珍しく無邪気に喜んでいる。
こうして私たちはおそろいのブレスレットを買ったのだった。
銀貨→千円
金貨→一万円
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