材料がないなら製品を納めればいいじゃない
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「あれ、今日のエルナは眠そうですが、何かあったのですか?」
翌朝、私はほぼ徹夜でミアと合流した。
「いや、ちょっとレベルたくさん上って興奮しちゃって寝付けなくて」
私は照れ隠しにあはは、と笑う。
勇者への報復は絶対にミアに言わないし、巻き込まない。
「大丈夫ですか? 無理そうなら言ってくださいね」
「大丈夫大丈夫」
本気で心配されると申し訳なくなってしまう。とはいえ、今日は戦闘に行く予定はないし、大丈夫だろう。
今日会いに行くのは魔術学校の教授であるメリーフェンである。例のトロールから出て来た謎の宝石を調べてもらうためだ。
彼女の職業は『学者』でマジックアイテムなどに詳しいし、特に宝石や鉱石が専門だという。私やミアも授業を受けたことがある。いわゆる研究者気質で、いつも授業にダルそうに臨んでいた。
一度、『魔法研究史』の授業を受けていたのにメリーフェンの研究が終わらなかったため、授業は彼女が鉱石から黒鉄鋼の金属を分離するのを見学させられるという事件もあった。
学園とはいえ、元々は研究所が母体だったため、敷地の半分以上は研究施設である。私たちは卒業生ということもあって、門で名を名乗るとすぐに入れてもらえた。
私たちは学生だったころの郷愁に浸りながら校内を歩き、メリーフェンの研究室を目指す。
「入りたまえ」
研究室のドアをノックすると、中からは聞きなれた不機嫌そうな声が聞こえてくる。ドアを開けると、白衣を纏った幼女……の外見をしたメリーフェンがいた。彼女は小人族の血が混ざっているため、大人になってもこれ以上外見は成長しないらしい。
「随分仲が良さそうだね」
「いえ、それほどでも」
ミアがなぜか照れているが、メリーフェンは不機嫌そうだ。
「僕の授業をあれほどさぼった癖に今更何の用だい?」
「いえ、私はさぼってません」
ミアが少し申し訳なさそうに訂正する。
そっちも真面目に授業してなかったからおあいこだと思うんだけど。
「そうだっけ? 僕はこれでも忙しいんだ。手短にしてくれ」
「実は先生に調べてもらいたいものがあって」
「全く、先生には敬語を使いなさいと何度も。ていうかそういうの困るんだよね、学生なら教える義務があるっていうのは分かるけど、卒業してまでこの僕を便利屋扱いしようだなんて。大体僕は締め切りがやばいんだ」
「はいこれ」
メリーフェンがしゃべっているのを無視して私は袋を渡す。
そこでふと気づいたのだが、一晩寝ている間に袋の表面が黒づんでいた。これまで何を入れても全く痛まなかったのに、たった一晩で痛んでいる。やはりこれは結構やばいものだったらしい。
「何だこれは」
メリーフェンも袋の中身を見て表情を変える。おそらく彼女もそれが何かしら異常なものだと気づいたのだろう、それまで気だるそうにしていたのに、急に真剣なものになった。
「実は……」
私はトロールを倒した時のこと、そしてこの袋が一応魔力を絶縁するものだということも話す。聞くにつれてメリーフェンの表情が険しくなっていく。
「今の僕の気持ちが分かるかね?」
「え、これが邪悪なものか心配とかですか?」
ミアが平凡な推測をするが、おそらくこの先生はそんな普通のことは考えていない。
「違う違う、僕はこれが何なのかすごく気にはなるけど、頼まれていた鉱物を精錬する仕事の納期があるんだ……ああ、どうしよう、僕の崇高な研究の前に納期などという俗的なものは消滅させた方がいいのではないか!? そもそも僕は学者なのに何でそんな依頼を受けなければならないんだ!?」
メリーフェンは頭を抱えて苦しんでいる。めっちゃこれに興味示すじゃん。私は彼女の耳元に口を寄せると、ささやいてみる。
「そう、これは邪悪な宝石の研究。納期より大事……」
「確かに。僕は決して自分の好奇心を優先させたのではなく、正義のために」
お、先生も堕ちかけて……
「先生、もし私たちで手伝えることがあれば手伝いますよ」
ミアはどこまでもいい娘だった。正直先生の納期は私にとってどうでも良かったが、ミアのそういう人がいいところは好きだ。
「あー、こほんこほん。では改めて。僕が依頼を受けていたのは碧鉱石の精錬だ。授業でも説明したように、鉱石は発掘したばかりの時はどうでもいい石が混ざっている」
確かに授業では説明されたけど、先生が『魔法研究史』の授業をさぼって自分の実権をしていた時なんだけど。
「通常は鉱石の精錬は鉱山にある施設でやるけど、碧鉱石は風の魔力が籠っている貴重な宝石だ。素人が手を出すと、魔力が破損する可能性があるのでこの僕にわざわざ依頼が来た訳さ」
だめだ、全く手伝えるポイントが思いつかない。
「錬金術師の君なら出来るだろう?」
「いや、そっち系のスキル全く持ってない」
失望した、というふうに彼女はカラン、と音を立てて先ほどの宝石が入った袋を机の上に転がす。
確かに精錬は出来ないが、私はふと思いついたことがある。
「ところでその碧鉱石って何に使うか分かる?」
「ああ、剣に嵌めることで風の魔力を纏った魔剣、エアブレイドを作るらしい」
「その魔剣構造って分かる?」
「ああ」
そう言ってメリーフェンが一枚の紙を見せる。構造は単純で、ほぼ普通の剣に碧鉱石をはめ込んだだけだ。試したことはないが、これなら多分いけるのではないか。
「大体分かった。ミア、いつものお願い」
「え?」
「クリエイト・エアブレイド」
私の魔法にミアがすかさず『詠唱短縮』『代償軽減』をかける。さすがにこれまでのものと違って大分魔力をいかれたけど、数十秒後、目の前が緑色に光り輝き、エアブレイドが出現する。
「ええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
メリーフェンが大声を上げる。
「精錬は出来ないけどエアブレードを納品すれば大丈夫でしょ」
「い、いや、それはそうだけど一体どうやって……」
メリーフェンは絶句する。
錬金術で何かを作る際に必要なのは対象の構造の把握と、素材である。私の場合素材は魔力で代用出来るので、構造さえ分かれば創り出すことが出来る。
ただ、水や土、そして碧鉱石自体のような基礎的な物質ともいうべきものは生みだすことが出来ないらしい。その境界がどこにあるのかは調査中だ。
「ふふふ、企業秘密かな」
「もう納期とかどうでもいいからその力が何なのか教えてくれ! 頼む!」
突然メリーフェンの目の色が変わる。こうしてみると小動物のようで可愛い。まあ言いふらすような人でもないしいっか。
「いや、ただの固有スキルだって……それよりさっきの石を調べて欲しいんだけど」
「そうか、固有スキルか。やはり僕も固有スキルを手に入れないといけないのか。まあいい、その石のことは僕に任せてくれ」
「はい、私からもお願いします」
「……なあ君たち、物は相談なんだが、僕の助手にならないか?」
「いや、私たちやることがあるんで」
「そうか」
メリーフェンは露骨にしょんぼりした顔になる。何かちょっと可哀想になってきた。
「まあ、今後も何かあれば協力はするから」
「本当か!? じゃあついでに紅鉱石と、蒼鉱石と……」
急にメリーフェンは表情を輝かせる。私はさっき可哀想だと思ったのを二秒で後悔するのだった。とはいえ、この力があれば無限に何かを出してお金稼ぎが出来るな。
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