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勇者の没落

 そのころ仲間を失い一人きりになった勇者ジークは辺境の山野でひたすら魔物狩りをしていた。依頼が来ようと来なかろうと、魔物を討伐して持っていけば一定の報奨金は得られる。一人でたくさんの魔物を倒すことに集中すれば、一人でも変わらぬ効率を維持することは出来た。

 俺は一人でもパーティーの時と同じだけの魔物を倒すことが出来る。

 そう思ってジークは自分の気分を満足させようとしていた。


 しかしジークの心は満たされなかった。金と強さは得られても、賞賛や名誉は他者からしか得られないものだからである。


 魔物をひたすら討伐する中、ジークも“邪悪石”を見つけた。彼はそれがそういう名前で呼ばれていることは知らなかったが、それがどういう効果を持つのか直感で理解した。そしてそれを無造作にポケットに入れた。


 そんな時、ジークの元に十数日ぶりに依頼があった。依頼、と言ってもギルドを通してくる通常の依頼とはかなり異なるものであったが。

 いつものように一人宿の酒場で酒を煽る彼の元に訪れたのはフードで顔を隠した怪しげな男だった。


「ジーク様でございますか」

「そうだ」


 ジークは不機嫌そうに答える。不人気となった今でも稀に面白半分で声をかけてくる者はいるが、もはやうっとうしいだけだった。


「お話があるので二人きりになれませんか」

「いいだろう」


 勇者である自分を害することが出来る者などいない。だからジークはノータイムでその誘いに応じた。

 二人は街の路地裏にある薄暗いじめじめとした空間に入っていく。


「ここでいいか?」

「私はこの国の第二王子カルロス殿下の配下の者でございます。殿下は第一王子のアローン殿下より英邁で武勇にも優れているのにも関わらず生まれたのが遅かったというだけで次期国王にはなれません。心優しい殿下はそれでも納得していらっしゃいますが、我らとしては看過できぬことでございます。勇者様もそのようにお考えではないでしょうか」


 男が急に生き生きと政治情勢について話し始めたので最初ジークは困惑したが、結論だけ見ればそれは単純なものであった。


「そうだな。強い者こそが評価されるべきだろう」


 ジークは心底からそう思っていたので頷く。それを聞いた謎の男は気を良くする。ジークが味方にいれば、少なくとも武力で敵方に負けることはない。


「さすが勇者様でございます。是非我らとともに強き者こそが名誉を受け、支配する国を作ろうではございませんか」

「それはもっともだ」


 冷静に考えれば自身の圧倒的な力を魔物にしか向けてはいけないという道理はない。自身を評価しない者たちに向けても何の問題があるだろうか。


「では是非王都にお越しください。是非勇者様にはカルロス殿下の最強の剣となって欲しいのです」

「分かった、いいだろう」


 こうしてジークは何者とも知れぬ男と早速意気投合し、共に王都に向かったのである。


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