Ⅸ.食糧確保完了
気が付けば、時計には16:40と表示されていた。
一番最初に時計を見たときの時刻は5:00。
窓の外は常に暗いので時間感覚がおかしくなりそうだが、この世界に来てからもう12時間近く経過している。
俺はリョウタやシロとわかれ、アイリたちと共に拠点へ向かっていた。
両手いっぱいに、食糧を抱えて。
お腹は空いていない。
食堂で満たした。
あの時、確かに死んでしまった女性の遺体は、黒いモヤに包まれて消えた。
死人はこの屋敷から排除されるのだろうか。
わからない。
12時間でわかることなんて、凡人の俺には少なすぎる。
部屋に着くと、中を覗いた。
部屋を間違えていないか、誰も入っていないか。
念のための確認だ。
誰もいない、間違いないことを確認すると、中に入り、部屋の机の上に食糧を置いた。
三人が手一杯に持ってきたのだ。
相当な量であることは言うまでもない。
「ねぇ、クロ。
シロちゃんと何かあった?
すごく気にしてるみたいだったけど…。」
「なんでもねぇ。」
ベットに腰掛け、後ろをてくてくとついてきたうさぎのぬいぐるみを抱えたアイリが問う。
彼女もまた、リョウタに似ているところがあると思う。
俺たちが一息ついた頃、屋敷内に懐かしくすら感じる、けれども嫌なアナウンスが鳴り響いた。
《ご機嫌よう、生存者の皆様。
皆様、17:00までに一階中央にございます、会議室に集合してください。
また、会議室では各自の能力は無効化されますのでご安心くださいませ。》
会議室に行って、何をするというのだろう。
能力が使えないとしても、俺やクロのようにナイフを持っている人はいるはずだ。
現に、この部屋にいる中でも三人中二人はナイフを有している。
普通に考えて、そんな危険な場所に行きたいと思う人はいないと思う。
《皆様にチャンスを差し上げます。
この屋敷に集う参加者の、生存者の中から、重罪を犯した人物を見つけてくださいませ。
会議において、多数決で処刑する人を一人決めるのでございます。》
重罪…?処刑…?
そのワードが、頭に引っかかった。
腕時計を確認すると、生存者数は20名。
もう、開始から半分以上の人が死んでいる。
重罪というのは、この屋敷内で殺人をした人のことだろうか。
それとも、外の世界での事か。
どちらにせよ、俺たちではない。
アイリのことは昔から知っているが、そんなことをするような少女ではないと断言できる。
クロも、昔は優しくて明るかった。
確か、一つ下に可愛らしい妹がいたはずだ。
学年が違えど、クラスでも人気者だった気がする。
いくらひねくれたところで、妹のためにも犯罪行為はしないだろう。
もっとも、重罪の内容が何なのかは見当もつかない。
《また、不参加や、遅刻をした場合も処刑対象となります。》
その言葉が、鋭く耳に届いた。
言葉の刃と言うべきか、耳が痛い。
人が目前で死んでも保てた平静さが、ゆらゆらと揺らぐ。
死を身近に感じた。
「ユウ…?」
アイリの心配するような声音で我に返った俺は、ふと彼女の発言を思い出した。
「そう言えばアイリ、殺人現場を見たって言ってたけど、その時どう思った?
血は流れていたか?」
「え、えっと…。
怖くて、一心不乱に逃げた。
血は流れてなかったと思う。
でも、加害者の人が、すごく寂しそうな目をしてた気がする。」
アイリが語る心情と、俺が見たアイリの様子が一致しない。
この屋敷に来てからアイリと再会したとき、彼女は落ち着き払っていた。
今の俺たちのように。
俺たちは、死体に見慣れているのだろうか。
だから、こんなに冷静でいられる?
いや、俺の記憶に殺人をした場面はない。
それに、死体を見慣れるハズなんてない。
俺は至って普通の、一般人のハズだ。
「おい、時間過ぎたら処刑なんだろ?
死にたくねぇし、お前に死なれても困る。
さっさと行くぞ、会議室ってとこによ。」
俺の思考に蓋をしたのはクロだった。
確かに今は、色々と考え込むよりも行動することの方が優先事項だろう。
時計を見ると、時間まで残り10分だった。
ここは二階だ。
一階よりも二階の方が、人がいる可能性が低いから、俺はあえて、二階で空き部屋を探した。
現に、会議室も一階だし、浴場も一階だ。
お風呂に入る人がいるのかどうかはわからないが、一階の方が施設が揃っている。
会議に参加すれば、一階に身を潜める人から新情報を得られるかもしれない。
それによって、ゲームの平和的解決方法が見えてくるかもしれない。
アイリはうさぎのぬいぐるみを抱きかかえた。
俺は、ポケットにナイフを忍ばせ、クロは無表情で両手をズボンのポケットに突っ込んでいる。
俺たちは処刑のリスクを背負いながら、会議室へ向かった。
残り20名