Ⅱ.ゲームの開始
能力をくじ引きにより授かった俺は、屋敷に入ってすぐ、空き部屋へと逃げ込み、中から鍵を掛けた。
くじ引きスペースには腕時計が用意されており、一人一台持ってきても良いと言うことだったので、拝借した。
これは、現在の生存人数が見られること以外は、いわゆる時計と同じ機能が備わっている。
一人で落ち着く時間を確保することに成功した俺は、先程説明された情報を頭の中で整理していた。
ここは現実世界ではない。
最後まで生き残れば現実世界に帰れる。
能力を駆使して殺し合いをしなければならない。
殺人経験など皆無な俺が、能力という未知の力を使って簡単に人を殺められるとは思わない。
時計を見ると、先程まで45だった数字が40になっていた。
誰かが、誰かを殺したのだろう。
予想よりも早い。
ごく普通の一般人が、人を殺められるはずない。
それならいっそのこと、このまま部屋に引きこもってやり過ごそうか。
だが、この部屋に引きこもっていては餓死してしまうかもしれない。
きっと、食料は用意してあるはずだ。
場所は…恐らく調理室だろう。
殺し合いをさせることが目的なら、餓死なんてさせるわけがない。
我ながら、こんなに落ち着いていられることが不思議でならなかった。
こんなよくわからない状況で、理性を保っている。
自分を褒めてやりたいくらいだ。
今は、物音を立てずに過ごすことが最優先だが。
鍵を閉めていて、ここにいることがバレないだろうか。
そんな緊張で、心臓が激しく脈打つ。
その音さえもバレるんじゃないかと不安で、苦しい胸を両手で押さえた。
「大丈夫だ…大丈夫…。」
自分に励ましの言葉を浴びせ、なんとか落ち着こうと深呼吸をする。
部屋の隅に座り込んでいた俺は、立ち上がって大きく伸びをした。
もしかしたら、壁を透視する能力者がいるかもしれない。
もしかしたら、この部屋には既に爆弾が仕掛けられているかもしれない。
全くわからない状況が、今は一番怖い。
俺は能力の書かれたメモ用紙をぎゅっと握った。
体中の筋肉が強張る。
改めて部屋を見渡すと、中々豪華な部屋だった。
ベッドもあるし、本棚もある。
机もあって、紙やペンもあって、俺の部屋よりもずうっと豪華かも知れない。
こうすることで、少しでも緊張をほぐそうと思った。
すると目の先に、キラリと光るものが見えた。
机の下を見ると、カッターナイフが落ちている。
俺がそれを持ち上げた途端、扉がノックされた。
ドアノブがガチャガチャと音を立てる。
ハッとして、慌ててナイフを扉に向けた。
額に汗が滲む。
扉にのぞき穴はない。
それでも扉を蹴破られては、この拠点を失うことになってしまう。
俺はしばらく様子を見ることにした。
「ユウ…!開けて、私だよ…!
アイリだよっ…!!」
聞き覚えのある声に、俺は扉へと近付いた。
100%信じたわけじゃない。
ナイフを構えたまま、扉に近付く。
俺の名を知っていて、且つ俺の知っている名を名乗る、何回も聞いた懐かしい声音。
それでも、それが能力である可能性がある。
例えば、なんらかの条件を満たせば相手の情報を得る事が出来る能力者と、一度聞いたことのある声を真似することが出来る能力者が組んでいたとしよう。
今の状況をつくりあげるなんて、とても簡単なことだ。
「……。」
扉の前まで行くと、耳を扉の向こうへ傾けた。
疑われる事は百も承知だろうから、きっと何かのアクションを起こすだろう。
普通の人であるのならば。
「ユウ…!ユウってば…!!
アイリだよ?早く開けて…!!」
だがアイリに関しては、そんな行動はしない。
さっきユウの背中が見えて追ってきたの…とか、私もこの世界に巻き込まれちゃったらしくて…とか、そんなことは一切言わない。
馬鹿の一つ覚えとでもいうように、同じ事を延々と繰り返すのだ。
言い訳も何もない。
「はいはい、待て待て。」
本当にアイリもこの世界に巻き込まれていたのだと、俺は確信した。
扉を開けると、懐かしい茶髪の少女が飛び込んでくる。
突進でもしようとしていたのか、開けた途端に突っ込んできた。
そのまま勢い余って、ベッドに顔面から着地する。
相変わらずの幼馴染みとの再会に、俺は自然と頬が緩むのを感じた。
アイリが入ってすぐに、扉を閉め、鍵を掛ける。
「びっくりしたぁ。
屋敷の入口を眺めてたら、ユウが見えたんだもん!」
そう言って、アイリはベッドの上に置かれていたクマのぬいぐるみと戯れ始めた。
ぬいぐるみの両手をパタパタさせたりして、会話を楽しんでいるらしい。
俺の記憶に残るアイリも、同じようなことをしていた気がする。
もう、随分と昔のことのように感じるが。
クマのぬいぐるみと戯れるアイリを見て、なんだか少しホッとした。
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