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領主の言葉

 生首を掲げ、全身が泥まみれの彼の姿は、いつもの汚れ一つない金色の美男子の姿の時よりも鬼気迫り、エンバーンが彼を恐ろしいとさえ感じる程である。

 イーオインはゆっくりと馬を領民の間を歩かせながら、しっかりと領民一人一人の顔をねめつけ、そして、エンバーン達の盾になるような位置にまで来ると、持っていた生首を領民達の足元に投げた。


 彼らは生首に驚き後ずさり、だが、その生首が自分達の仲間の一人だったと気が付くや、脅えを持った目で一斉にイーオインを見返したのだ。


 イーオインは全員の視線が自分に集まったと見ると、静かな、しかしかなりの怒りを含んだ声で彼らに語り始めたのである。


「こいつだ。こいつが全員に毒を飲ませたんだ。お前達の良く知っている、医者の振りをした極悪人だ。人が焼かれ始めたのは、こいつが来てからだろう。こいつの言いなりに、君達は金を貢いだりしていただろう。」


 誰かがそうだ、と口にすれば、それは雪崩のように次々と、こいつだ、そうだこいつだと、新住民達は今までの不安や恐怖の相手に怒りの罵り声をあげた。

 そして、自分達の罪悪感を降ろせると、殺す方の陣営にいた旧住民達もそれに同調し、松明を持った領民達の殺意は一先ずエンバーン達から生首に集中した。


 イーオインはこれで全部収束出来たのではないかと妻を見返したが、妻の自分を見る目は、ミリアがルーカスを見つめる目ではなく、イーオインが熊の穴にエンバーンを隠した時に見せた時と同じ目ではないかと思った。


 別れを覚悟したあの日の目だ、と。

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