あの日
ルーカスの背にあの日のイーオインの背中を思い出していた。
ひぐっと、親友の涙を飲み込む音も聞こえた。
親友をあの日の自分に見立てたからか、私はあの日の記憶を第三者視点で見れたのかもしれない。
イーオインが死ぬ気は無かった筈だと、あの日のイーオインは自分と一緒に外国に絶対に逃げるつもりであったのだと思い直せたのである。
「逃げるわよ、ミリア。私達がいたらルーカスが逃げられない。」
背を向けているルーカスからは含み笑いが聞こえ、そして、彼女が目を合わせたミリアはルーカスの為に絶対に逃げ切るという決意の眼で見返している。
「絶対に逃がすものか!」
エメリアの叫びに領民の輪は再び一歩踏み出し、私はルーカスの動きに連動して動こうと刃を抜いて腰を落とした。
「ほう。」
頭上でフクロウの鳴き声が突如響き、その声に領民達の歩も止まり、全ての眼が小屋の屋根に止まる銀色のフクロウへと集まった。
金色の月の光で輝く、シュエット家の紋章である銀色のフクロウ。
「ど、どうしたのよ!あのフクロウこそ魔女の印でしょう!」
「違うよ、エメリア。シュエットは王の鳥だ。そして、魔女はここにいる。」
静かな声に一同がその方向を見れば、銀色の馬に乗ったイーオインが、領民達に向かって生首を掲げた所だった。




