コニウムダンプ
コニウムダンプに生えているのはドクニンジンだと言うが、イーオインの見立てでは殆どがただのウイキョウである。
大昔はドクニンジンばかりだったのかもしれないが、大事な馬や家畜が間違えて食べて死んでしまうのならば、人間は必死になって刈り取るはずなのである。
今でもこの名前なのはただの名残であり、ダンプと名前がついているように底なし沼とも思える泥土もある危険を周知する為でもあろうと、イーオインは切り捨てたばかりの男の首に紐を付けて泥土へと沈めた。
医者と自称して、罪も無い者に死刑の宣告をしてきた男である。
「お前は私のフクロウだ。」
シュエットの始祖ヒューが王のフクロウというのは、ヒューが王の為だけの単なる暗殺者であっただけである。
シュエット家は王に仇なす人物を領地に引き込んでは殺し、そうして褒美を得ては栄えてきた一族であったのだ。
「ジョンが処刑されたのは、その生業を捨て去ろうとしたからか。」
完全に男が沈み切ると、イーオインは踵を返してシュエット達を狩りに走った。
領主が一人で人を殺す筈など無いのである。
領主には付き従う兵がいるはずで、その者達はジョンに切られたからこそジョンを反逆者だと王に売り、ジョンに従った裏切り者のアリスを恥辱に貶めた。
イーオインの目の前に黒い覆面を被ったマントが現れた。
彼はそこで足を止めずにマントへと剣を翳して切りかかった。
イーオインの渾身の剣を受けるには騎士でも傭兵でもない男は非力すぎ、イーオインは剣を男に受けさせたまま横へと振り払った。
振り払われた男は左斜め後ろからイーオインに斬りかかって来た男にぶつかって大きく転び、イーオインは転んだ者達に止めを刺した。
「嫌な感触だ。敵でさえも嫌なのに、ルーカスは仲間に振るえるんだよな。他の仲間にはさせずに、一人で、一人一人の遺言を聞きながら。」
そしてルーカスは死んでいく仲間に答える、いいよ、と。
「俺はあいつにいいよと言ってやった事が無かったな。」
ざざざ、と人の走る音がイーオインを取り巻き、イーオインは自分が完全に囲まれた事を理解したがそれだけである。
イーオインに最初に屠られ、屠られるときにシュエット家の秘密を吐露した男こそ仕掛けられた罠であり餌であり、自分はまんまと罠に嵌ったのだと笑った。
明日燃やされる八人こそ、イーオインを不審に思わせて、イーオインを嵌めるための撒き餌でしかなかったのである。
しかし、解り易い餌ならばイーオインにも使い道がある、と心の中で断定し、死体さえも道具に使えるようになった自分に反吐迄こみ上げていた。
「素晴らしいな。お前達も俺も最悪だよ。最悪だと思わないか。生きるのも死ぬのもくだらないしきたりの為、だ。ジョンのお前達を捨てようと決意した気持ちが、エドワードがお前たちの誘いを断って大陸へと渡った気持ちがわかったよ。知っているか?お前たちの姿を書き残したジョンとエドワードの日記はね、それどころか代々のシュエット領主の苦悩はね、シュエット家の隠し通路に全部刻んであるんだよ!消し去りたかったら、あの館を全部燃やさなければならないね!」
敵は無言で、それは鳥のようにひゅんとイーオインに切りかかり、イーオインは攻撃をかわすことなく切り捨てた。
「普通に小麦や家畜を育てて生きる方が貴いだろ。俺はしつこいよ。お前達が人を殺してきたように、お前たちの家族も、女子供だろうが、生き方を改めない限り全て斬り捨てる。」
斬捨てなくとも、古い住人達だけに配られるワインによって、今夜中にでも気分を悪くして苦しみ悶えるだろうと知っている。
否、既に苦しんでいる者達が出ているであろう。
今や新住人達と旧住民達の数は拮抗している。
旧住民の体調の悪化で新住民達が彼等を疫病患者だと隔離する事に、旧住民は抵抗など仕切れるものではないのだ。
今まで行ってきた火葬という処刑から彼等が逃れるには、彼等が今までの事は疫病では無いと語るか、病では無いと断定する者が必要だ。
「お前らは俺を殺しても、お前ら家族はお前らがしてきた咎を受けるだけだ。いいか!家族共々生き残りたければ、普通の人に戻れ!殺しをここで止めるんだ!最近のお前達の行動は、王のためどころか小銭を奪うだけのただの強盗じゃないか。」
「うるさい。名ばかり男爵。」
「ばらばらにしてやる。」
「くく。その後は燃やしてしまえ。」
子供のような声が謳う様に囃した言葉に、イーオインは過去の遺体を思い出して背筋に冷たいものが走った。
冷たいものは恐怖どころか、純粋すぎる怒りである。
「――ララを殺したのはお前らか。」




