隠された思い出
ずっとここにいても仕方が無い。
私は鳥小屋から兄の部屋、イーオインの書斎となった部屋へと戻ることにした。
そして、部屋まで走りながら、どうしてあの部屋にはエドワードのよすがが思い出せないのだろうと疑問がもたげていた。
「私物があっても、エドワードの思い出も思い出せない部屋って、きゃあ!」
絨毯に足を取られて、大きく転んでしまったのだ。
幼い頃もこうして転んだ、そう思い出した。
そうだ、その時兄はおかしなところから飛び出して来なかったか。
幼い自分が転んだ時の格好を転がったまま模倣し、それから思い出した兄が飛び出して来た位置へと顔を向けた。
しゃがんだ大人の男が隠れられるくらいのサイズの棚があり、棚の下部で絨毯が緩んでいた。
「転んだのは絨毯が弛んでいたからなのね。」
すぐに立ち上がるとその棚へと向かった。
大きく息を吐いてから棚の扉を開けるとそこには普通に酒瓶とナッツの瓶が並んでいるだけの棚である。
「そうよね。私は何を期待していたのか。」
がっかりしながら扉を閉め、転んだ私を抱き起そうと棚の扉を慌てて閉めた兄は、私が閉めた反対側を開け閉めしていたと思い出した。
そこで物の試しと、取っ手のある方でなく、反対の方の角を両手で掴むと、思いっきり引いたのである。
「きゃあ。」
自分の勢いでその場に転がり、簡単な力で開いた扉は、私に真っ暗な世界へと誘うかのようにぽっかりと四角い空間を空けている。
さぁ、暗黒の秘密があるぞ、と。
私は立ち上がり、室内から適当なランプを取り上げると、炎を灯したそれを手に、真っ暗な穴へと潜り込んだ。




