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農場跡

 ミリアが火を放ち、イーオインとルーカスが大暴れに暴れて完全に燃やし尽くした農場は、厩以外、今はもう燃えるものは残っていない。

 イーオインは馬から降り、鞍に括りつけられたランプを手に持つと、厩に向かって歩き出した。


 ベイリーを捕えた後、ルーカスとイーオインはエンバーン達のいないところで簡単な尋問も行っていた。

 傭兵に拷問はそれほど通じはしないとイーオインは大して期待もしていなかったが、ルーカスは経験値がイーオインよりも高いからか、独特の拷問方法でベイリーの口を開かせたのである。


「ねぇ、エメリアの皮膚病ね。うーん。君には確実に感染しているみたいだから、俺は君を触りたくないの。適当な事を喋ってくれたら解放するけど、どう?」


「え、ルーカス。何の皮膚病だったのか聞いたのか?俺はエメリアをしっかり触ってしまったよ!うつっている?俺も危険な状態か?」


「お前は尋問の邪魔だよ。」


「いや、いいから。何の病気だって言っていた?」


 ベイリーよりも浮足立ったのはイーオインであり、そんなイーオインの混乱を目の当たりをしたベイリーは、ルーカスに助けてくれと叫んだのだ。


 つまり、イーオイン自身こそがルーカスがベイリーに用意した精神的拷問道具だったわけだ。


「助けてって、うーん。君の情報によるかな。君の雇った傭兵の数とか、あの農場で一体何が行われていたのか、かな。それで十分。エメリアとお幸せに。」


 本気でやる気がなさそうで、一応捕虜に対しての事務的対応でしかないという風に拷問官となっているルーカスに、ベイリーは重要人物であろうと勝手に自助努力をし始めた。


 情報を引き出すつもりはない、イコール処刑してもかまわない人物という事である。


 よしんば解放されたとしても、ベイリーが恐ろしい皮膚病を患っているのは事実であるらしいのだから、治療法などの情報をベイリーは少しでも手に入れなければならないのだ。


「知らないよ。俺は本当にエメリアの愛人だったってだけだ。農場はただの売春宿だって言うのは聞いていたけどさ、時々貴族みたいな金持ちも客になっているとは聞いていた。俺達だって本気で宿屋から誘拐されて連れ込まれたんだよ!俺達はアダムの行方だけを探していたんだよ!」


「ふうん。そう。誘拐されていたついでに、昨夜バラバラにされて殺された男っていたじゃない。君は死体を見たかな。生きている時でもいい。誰だったのかな。」


 その時のルーカスの質問がイーオインには奇妙に思えたのだが、今にして思えばエンバーンが語ったガルディスという名前と、イーオインがルーカスに語ったエンバーンの骸の話で、大事な人間を殺した人物を特定したかったのだろうと彼は今では考えている。


 ルーカスはエンバーンに半死半生にされた二人の男は見たが、頭の息子だという遺体を見る事は出来なかったのだ。


 ベイリーは答えられず、殺された男は今も名無しのままだ。

 ついでに言えば彼とエメリアを司法に渡す段階で、二人が牢の中でこと切れていたことで、イーオインの中で農場については有耶無耶になってしまったのである。


「本当に俺は間抜けだよ。」


 シュミットの領地に戻って来てから領地内を調べて回っていたが、少年時代に知っていた家族や一族はいるが、新参者も多く、特に中流以上の富裕層の人間の入れ替わりが激しいという事に彼は気が付いていた。


 村内で恒例行事のように疫病だと人が燃やされるが、古くからいた人間が病に倒れたことは無く、さらに言えば、疫病を起こすのは新しい人間だ。

 よって、領地内の人間は新参者を疫病持ちだと最初から考えて彼らの動向に目を光らせ、新参者は古い住人達の要求を飲めるだけ飲んだ後に、疫病患者となってこの領内から姿を消す、そういう繰り返しなのである。


 六年前のイーオインがどこに逃げても密告され、言動の一つ一つを監視されていた理由はそれであるのだ。


 イーオインは思い返しながら厩に奥へと進み、馬に砂浴びをさせるための砂が満杯となっている木枠で囲まれた砂場へと進むと、適当な所に自分の剣を刺し始めた。


 ぶす、ぶす、ぶす、ずぶり。


「やっぱりここか。ルーカスの言った通りだね。あるはずのない場所にこそ、人は大事なものを隠す。ここに隠しておけば、誰かが掘り起こして、人目について欲しくない遺体を別の所に捨ててくれる。」


 木枠を壊すと砂はざぁっと一気に床に零れ落ち、砂が減った木枠の中には、イーオインが見つけたララのようにバラバラにされた男の遺体の一部が顔を出していた。

 寒さによって腐乱が抑えられているといっても、既にひと月以上は経っている遺体の顔などは見分けがつく有様では無い。


 だがイーオインが知りたい情報は遺体の顔立ちなどではない。


 イーオインは遺体が纏っている衣服の切れ端から、それがイングスフェールのものでは無く外国の物であり、死体の生前は地位が高く金持ちであったか、あるいは、そう見せかけた張り子に違いないと結論付けることはできた。


 イングスフェールでは寒すぎて絹は生産できず、絹の衣装など、男爵のイーオインでさえ一生袖を通さずに終わりそうな高級品であるのだ。


「それらしい舞台が無ければ詐欺が成立しないのであれば、それらしい役者も必要だものな。これは一先ずこれでよし。あとはジョンの時には一切なかった、コニウムダンプの処刑場か。」


 彼は皮袋に遺体の首だけを放り込むと、スフェールの待つところへと急いだ。

 明日には人が生きたまま殺されるというのであれば、今日中に彼らを逃がし、そして、この領地で行われている実体をつま開きにしなければならないのだ。

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