ミリア
ミリアの姉のアイボリーはオーシャンブルーを偏愛する異常性もありながら、父親だけではなく領地では優しい天使だと評判で、ミリアの方は取り換えっ子だと有名である。
妖精が取り換えた子供だから、ミリアは癇癪持ちで扱い辛い子供だという事だ。
唯一ミリアを庇っていた長兄は、数年前に姿を消したままだ。
長兄は北方の国かどこかで死んで埋まっているだろうとミリアは聞いた事があり、だからこそ次兄への家督相続がすんなり宮廷で許可されたのであろうとミリアは考えている。
姉も半年後には結婚する。
十五の年に近隣の領主の妻となり、三年後に領主が死んだからと実家に戻って来た彼女は、騎士見習いとしてウィステリアに奉公していた騎士から、イングスフェール西部にある領地に戻るからと結婚の申し込みを受けたのである。
帰って来ない父親に承諾の伺いを立てても無しのつぶてで、それどころか宮廷へ姉の呼び出しだ。
姉がジュールズとの結婚に希望を抱いているからこそミリアが王都行を決行し、そして、父親に失望させられたのだ。
ウィステリアは昨年モンフォール候が催した宴にて、酔客に呑めない酒を飲まされた上に賭け事に加えられ、そして、当り前のように大敗したのである。
賭けの金を踏み倒したら貴族社会から排斥される。
そこで金を払えない彼は、娘の持参金となる土地の権利書を賭けの代償とするという証文に、言われるがままサインをしてしまっていたのだ。
アイボリーを王都に呼び出した理由は、自分の失態を直接伝えて、彼女に謝りたかったからというだけの話だったのである。
持参金のない娘は結婚などできない時代であるのだ。
真相を聞いたミリアは、彼女としては父親によく見られたいという打算もあったのは否定できないが、それでも心から姉の幸せのためにと父親に提案をしていた。
「父さん。私の持参金、エクウスベリーの土地を代りに渡してあげて。」
「バカなことを。価値が違うだろう。ミューズボウとエクウスベリーでは。」
「あら、証文には娘の土地の権利書でしょう。指定されていないのならば、私のエクウスベリーで構わない筈。」
「かまうよ!構います。持参金が無かったら、君は結婚できないでしょう。君が幸せになれないじゃないか!土地を持たせられなくともジュールズは良いと言っているのだろう。金が出来たら土地の分を彼らに返して行けばいいんだ、そうだろう。」
「じゃあ、姉さんの土地を私に頂戴。それで、姉さんにはその通りにすればいいじゃない。ミューズボウの収益があれば、姉さんに渡すお金の金額は大きくなる。」
ウィステリア男爵は娘の案をすんなりと受け入れた。
そして、彼を賭けに誘って大敗させた男に二束三文の土地を渡して「証文通り」と証文を破った事で、さすがモンフォール候の右腕だと名前を上げて尊敬を集めたが、ミリアの心は晴れるどころではない。
彼女は父親に持参金が無ければ誰も欲しがらない子供だと思われていたと、改めて突き付けられたという事なのである。




