王都にて
朝駆け夕駆けは私達の日課となった。
王都での滞在は憧れた事など無かったが、今後も憧れる事など無いだろうとしか言えない、ウンザリするだけのものだった。
だが、私には帰りたい領地など無い。
イーオインは王都の滞在費は自分が持つからと言ってくれたが、それこそ心苦しい以上の申し出なのだ。
私はイーオインの庇護、というか、私の面倒を見てもらう事こそ辛いのだ。
だって、守らねばならない存在など、責任と義務の話ではないか。
男爵令嬢に戻った今よりも、ミリアの従者でいた時の方が私は私らしかったような気がする。
私は日々、自分の無力さに押しつぶされそうになり、ミリアはそんな私のせいで彼女まで口数が少なくなるという異常事態に陥ってしまっている。
そこで私達は靴下丸、ルーカスの馬で気分転換をすることにしたが、勝手に厩から馬を引き出した所でルーカスに見つかってしまった。
だが、彼は私達から馬を取り上げるようなことはしなかった。
その代り、安全を心掛ける為の彼が考える講習を彼に丸一日かけて受けさせられてウンザリさせられた、と思い出す。
講習が終わったら馬を飛ばして気分転換しようとミリアと私は考えていたが、結局ルーカスの語った落馬によって死ななかった場合と、飛び出して来た子供を巻き込んだ場合が頭から離れず、結局のところ乗馬はギャロップではなくトロット、つまり馬の早歩き程度しか出来なかった。
だが、トロットによりギャロップの時よりも散歩に時間を多く取れて厩から出る時間が増えたことを知ったブケパロスは喜び、散歩の時間になると迷惑なほど大きな声で嘶くようにさえなっていた。
「こいつは馬じゃなかった。犬だよ。物凄い大型犬。それも頭が悪い系。」
最近のル―カスの言葉である。
「確かに馬じゃないかもね。」
馬じゃないと思い込んだらミリアに食べられてしまうかと、私はミリアに少々ビクついた。
「い、犬こそは食べられないでしょう。」
「意外とおいしいって聞いた事があるわよ。」
「えぇ!」
驚き声の私が少々嘘くさいと自分でも思ったが、ミリアはいつもの様に優しく微笑んでおり、私も彼女の様であったなら宮廷でも上手くやれたのかもしれないと、少々羨ましく思った。
「私がもう少し、ミリアみたいだったら違っていたのかしら。」
「ど、どどどうしてそう思うのかな。」
なぜか真っ赤になったミリアを不思議に思ったが、彼女はいつでもどこでも人に受け入れられるという天使のような人だ。
私のような女で可哀想だと、婚約者が周囲から慰められる事は決してないだろう。
「あぁ、私もエンバーンみたいだったら良かったのに。」
「え?」
「だって、私はいらない子だもの。」
私は嘘だろう、としか思えなかった。
しかし、ミリアは「だって。」と、語り始めたのである。




