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母と冬と離別

 灰色の空はところどころから金色の光を漏らし、ふわふわと小さな雪が舞う度にきらきらと輝いている。

 こんなに冬の空は美しいのに、母はある年から冬を憎むようになっていた。

 冬になるといつもふさぎ込み、居間の大窓から中庭をぼんやり眺めるだけだ。

 だから私は母親の為に中庭に飛び出しては歌を歌い、下手な踊りを踊って彼女を笑わせようと努力したのだが、私が十一歳になった冬のある日、それは全て徒労だったのだと認めるしかなかった。


 中庭の真ん中で、寝間着姿のままの母が横になっていたのである。


 彼女は発作的に自室のバルコニーから飛び降りたのか、血と寝具のダウンに塗れた姿で横たわっていた。


「お母様はお兄様だけが喜びだったから?」


 兄は雪のちらつく初冬のある日に、私達を残して戦場へと旅立った。


「ここは僕の領地で、それなのに僕は無力だ。強くなって、母上も君も守れる騎士になって戻ってくる。ほら、お願いだから顔をあげて。」


 私は私の手を握る兄を見返し、信じて待っていると答えるべきであるのに、兄に行って欲しくないばかりにずっと頭を垂れていた。


「どうして、どうして私はあの日のお兄様の顔を見てあげなかったのだろう。」


 自分の記憶は今やぼんやりと霞んでいるばかりで、ダークブロンドに紫色の瞳だったとだけしか兄を覚えておらず、実はどんな顔立ちだったのか詳しく思い出せないのである。

 出兵する兄から顔を背けていた過去は、私の取り戻せない後悔の一つでしかないと、私は思い出の中に佇みながら涙をこぼした。


「顔をあげて、僕の灰色フクロウ。絶対に戻ってくるから。」


 兄は自分を灰色鼠と呼んでいたと、私は記憶違いに驚いて顔をあげた。


「あ、あ、あ。」


 目の前には、明るい金髪に深い海のような瞳を持つ、太陽神のような神々しい外見の男が微笑んでいた。


「大丈夫。俺は死なないよ、大丈夫だから。」


 男は私と目が合うと安心させるようににっこりと微笑み、そして自分の腰に下げていた通常の長剣よりも細く短い剣を差し出したのだ。

 女性の腕の長さ程しかない、華奢で、柄にはフクロウの文様がある私の剣。


「これは君を守る剣だ。」


 あなたにここで自分を守って欲しいと、自分を残して行って欲しくないと、私は彼に言う事など出来なかった。

 それどころか、私は彼に待っているとも約束しなかった。

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