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早くも離婚!?⑥

 2人でサロンに戻り、テーブルに腰かけると、程なくして使用人達が料理を運んで来る。

 パンやジャガイモのグラタン、腸詰が入った具沢山のスープ。湯気を立てる品々はどれもこれも美味しそうなのに、目の前に座る人物のせいで全くと言っていい程食欲が湧いてこない。


「昨日は歩いて帰ったそうだな」


「え、ええ……」


「そんなに太っているのに、歩き回って大丈夫なのか?」


「……ハイネ様が心配なさる事ではありませんわ」


 馬鹿にしたようでもなく、淡々とした口調でジルを貶す彼も、食事する気等あまり無いようで、手に持ったナイフで腸詰を細かく刻むばかりだ。


「そんな言い方ないだろ? アンタは近い将来俺の嫁になるんだからさ」


「あの……。本気なんですか? ハイネ様ならいくらでも美女をお選びになれるのでは?」


「そうだな。アンタみたいな見た目の女は俺の周囲にはいない」


「だったらどうして、私を助ける為に結婚なんて……」


「あーパシリーに聞いたのか。口止めしたのに。口の軽い奴め」


 忌々しげに溜め息を吐き、ハイネはこの上なくダルそうに口を開いた。


「あんたの丸っこい体見てたら、俺の乳母の事を思い出したんだよ。俺にとっては使える女だったけど、パ…、皇帝の不興を買って殺されちまった。だからアンタも同じ様に殺されたら、2度あの人が死ぬみたいで寝ざめ悪そうだなって思っただけ」


 つまりハイネが懐いていた乳母の体形にジルが似ているから、助けてやろうという気持ちになったという事なんだろうか?


「私の体形に似た人はごまんといると思いますわ」


「太った女なんて紹介されない」


 ハイネにとってジルの体形は故人を連想する唯一無二の存在らしかった。だが、その人物と縁もゆかりもないジルにとっては、困惑するばかり。


「人質という立場を解消させたらいいんじゃないかとの意見もあったけど、普通に考えて、2か月半も人質として離宮に住まわせた人間をすんなり母国に返すわけないし、アンタが公国に帰れたとしても、向うで存在を消されるのがオチ。立場弱いみたいだし。だから俺の嫁にしといたらいいかと思ったんだよ」


「そうでしたの……。良く結婚を許されましたわね」


「別の国とは言え、人種的には一緒だし、アンタは他国とはいえ大貴族の娘だ。それに、まー、ハーターシュタイン公国大公の妃って称号はそれなりの価値はあるんだぜ? 敵国の指導者の妃を奪うって状況は、男からすると支配者意識をくすぐられるっていうのかな。女のアンタには分からないと思うけど」


 自分のような女にも奪う価値があるという話なのだろうが、ジル本人としては、信じがたい話だ。

 こういうのは深く聞いても、おぞましい何かを掘り起こしそうであるし、流しておくのが平和だろう。

 それよりも、ジルはもっと具体的な話を聞いておきたかった。


「あの、もう一つ質問してもよろしくて?」


「何だよ?」


「ハーターシュタイン公国と戦争をするのは何故ですの?」


「それ聞くんだ? この話を聞いたら、ますます生きて返せなくなるけど」


「返すつもりがないのは、今までのお話の中で良く分かりましたもの……。でもこのまま流されているだけでは、公国に居た頃の自分から何も変わらないですし、理由を教えてもらって、自分なりに考えてみたいのです」


 ハイネはパチパチと瞬きし、身を乗り出してジルを凝視する。


「これは意外といい拾い物になるかもな」


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