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入試と体形変化⑥

(それにしても私、本当にこの国の大学院に通ってもいいのかしら?)


 合格通知を受け取り、ジルは改めて気後れを感じていた。


 ハイネから聞いた話によれば、ハーターシュタイン公国はブラウベルク帝国と同盟関係を解消する事にしたはずで、現在ジルの立場は宙ぶらりんになっている。

 公国側が同盟関係を解消したとすると、ジルの命は公国に放棄されたに等しい。ハイネからジルへの求婚という話も伝わっているだろうが、信じていないだろうし、ジルが近々ハーターシュタイン公国の正妃という立場のまま殺されるだろうと予想してそうだ。


 ジルが死なずに済んでいるのは、ハイネの庇護があるからに他ならない。


 この状態のまま、大学院で研究等をするというのは、あまりに身勝手すぎるのではないだろうか? ハイネが居ない今、編入について再び確認する事も出来ず、途方に暮れるような気持ちになっている。


「あと、もう2通お手紙をお渡ししないといけないんですよね」


「もう2通も……? 誰からかしら?」


 ブラウベルク帝国に来てからというもの、テオドール大公の側近からの手紙しかもらった事のないジルは、一通は側近からのものかと推測する。


 オイゲンは二通の封筒をバッグの中から取り出した。

 一通はゴロゴロとした歪な形状になっている茶色の封筒で、もう一通は純白に金の模様が入った封筒だ。二通ともかなり特徴的な封筒なので、それを見たジルはいわくつきの手紙なんじゃないかと予想を立てる。


「お話が長くなるようでしたら、椅子に座りませんこと?」


「お気遣い有難うございます。長くお時間をとらせないようにいたします」


 ジルは温室奥のテーブルセットにオイゲンを案内する。観葉植物が頭上から幾つも垂れ下がるここなら、落ち着いた気持ちで話を聞けそうだ。


「私はお茶を用意してきます」


「悪いわねマルゴット」


 マルゴットが足早に温室を出て行き、ジルはオイゲンと2人残された。


「どなたからの手紙ですの?」


「こちらの茶封筒はハイネ様からので、こちらの白地に金模様のはハーターシュタイン公国大公テオドール様のものです」


「え!?」


 予想もしなかった2人からの手紙にジルは震える。


 オイゲンはテーブルの上に丁寧に2つの封筒を並べた。


「どちらからご覧になられます?」


 バクバクと音を立てる心臓を抑えながら、ジルは2つの封筒の上で手を彷徨わせる。


(どうしようかしら……、どっちも良くない事が書かれている気がするわ。正直読みたくない。でも――)


 ジルの手は何故か自然に茶色の封筒の方に動き、持ち上げていた。


 封筒なら普通便せんくらいしか入っていないはずなのに、その封筒はゴロリと立体的になっている。しかも皮ひもでグルグル巻きになっている為、封筒というか、小さな小包みたいな感じだ。


(ハイネ様……、いくら何でも武骨すぎますわ……)


 恐る恐る皮ひもを解き、封筒を開くと、中からゴロリと何かが転がり出て来た。


「ヒィ!?」


 身構えたジルだったが、出て来た物を良く見ると、植物の球根だった。


「球根……ですわ」


「ほぉ……、我が君は何故この様なものを?」


 ジルが摘み上げた球根を、2人で凝視する。


「中に手紙はないのですか?」


「ええと……、あ、何か出てきましたわ!」


 封筒を逆さにして振ってみると、ガサリと紙が落ちてきた。その紙も便せんとは思えない程にヨレヨレだし、球根から付いたであろう土が付着している。

 でも、受取人であるジルも手が土で汚れているのでちょうどよかった。


 便せんを手に取り、開いてみると、意外にも綺麗な文字が並んでいた。


”大学院への編入試験落ちたらどうなるか分かってるだろうな? それとさ、フリュセンの村人が球根をくれたんだ。アンタが育ててくれ。ラナンキュラスっていう名前なんだと。”


 手紙を読んだジルはすぐに言葉が出て来なかった。

 差出人の名前すら書かれていない簡素な内容の手紙なのに、ハイネの不器用すぎる優しさが感じとれる。


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