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おばあちゃん、背中も痛い

 ムッツ村は三方を農地で囲まれ、一方には森が続いていた。

 坂の上で一行は歩を止め四望する。


 ここからは村の全貌が見て取れた。


 点々と家屋が建つ村里を据えて、青い麦畑が勢いよく広がる。夕陽を受け作業をしている幾人と、豚だろうかの群れを引き連れる影も見える。

 そのまま視線を辿ると柵と畜舎らしき小屋に鶏と牛の姿も目に入った。

 更に茅葺の家屋が並び、道路という形では無いが家々の並びに沿って荷物を運ぶ人影がちらほら見え、井戸を囲み談笑している姿もある。


 中央には高さのある白い建物、少し北に最も広い家屋が建ち、その先が繁茂した森へと続いている。村から離れる程に鬱蒼としていて果てが見えない。

 村里との間を流れる川面が斜照にせせらぎ、折節に野鳥や家畜が喧騒を確かめる。


 おばあちゃんは脇の草に腰を下ろした。

「もう着いたのね」

「まだ着いてないよ」

「着いてないのね」

 ヨヒシコの手を取り立ち上がるおばあちゃん。

「背中も痛いねえ」

「家のある所まで行こう」


 ハマーもおばあちゃんの坐作を支えるべく腕を待機させるのが癖になったようだ。

「ヨヒシコは昔から優しくてねえ」

「ええ、お孫様も勿論、赫々たる大賢者の風格をお持ちです」


 ふっ、と風格だの言われてヨヒシコは鼻水が零れた。シャツの袖で拭いたが、村に紙があったら貰おうと考えていた。




「見ての通り長閑な村落です。まずは村長に」

 ハマーが言い掛けると、大隊長殿、と長く伸ばし駆けて来る姿がある。

「丁度良い出迎えですな、あれがムッツ村の村長です」


 その人物は途中で果てたのか雲を踏むような歩みになると、肩で息をしながらハマーに声を掛けた。

「見回って居りましたら」

 ぜえぜえと広い肩が動く。

「大隊長殿の姿が見え、もしや何かと思い」

 背は高くハマーと同じ程だったが体付きは薄い。頬が痩せているが不健康という感じではなく。ぎょろりとした大きな目が印象的な中年の男だ。

「駆けて参りました」

 ハマーに落ち着くよう言われ息を整える。


「ゴブリン共の討伐に何かありましたでしょうか」

「いえ、このお二方の御活躍で、問題なく片付きました」

 おお、と村長は更に大きく目を開き音の出ない拍手をする。

「これで皆も安心することでしょう」

「ええ、このお二人の救世たる一撃が凶人種を薙ぎ払ったのです」

「ほうほう、憎々しい小鬼共に一泡吹かせた訳ですな」

 ははは、と村長は、村人や行商への危険の他にも収穫前に圃場を荒らされ家畜が襲われるので困っており何度も領主に陳情を出したが金を出し渋られ粘り強く説得を続けてやっと大規模な討伐に、と口を動かし続ける。


「この人は誰ね、ヨヒシコの友達ね」

「友達じゃないよ、おばあちゃん」


 大体、村の被害は領主の損にもなると言うのに荒らされた作物はまた植えればよいなどと時期も知らずに、と言った所でハマーが咳払いをした。


「それもだが、我々が来た目的は」

 プレートメイルが音を鳴らす。三名の兵士達も背筋を正す。

「このお二人は、大賢者の後継者にあられます」


 村長は目と口を大きく開き、聞き返すように首を前に出す。

「大賢者様、と仰ると、諭吉先生」

 ハマーと兵士達が頷くのを確かめ、はっと気を取り直すと両足で後ろに跳ね、両膝と額と掌を同時に付いて地に伏せた。


「諭吉先生の再来であられますか!」


 うむ、とハマーは勇ましく顎を引いた。

「先程から高貴な風格を感じておりました」

 そうだったのか、とハマーは村長を見遣る。

「お二人は王都から馬車の到着まで、この村にご滞在なさるつもりだ」

「何卒、何卒、村を挙げて歓迎致します」

 村長は平伏したまま感涙に咽ぶ。


 ちらりと顔を上げてみると夕陽を後光に、大賢者二人の姿が涙で滲む。


 代々、諭吉先生の教えに国中が救われてきた。無論このムッツ村も例外ではない。

 最近では破廉恥な事に諭吉先生の偉業の分からぬ常識欠如の若者も居る中で将に救国の報である。


 村長は誠心誠意持て成そうと、太陽に誓い、胸に刻み、もう一度拝んだ。




「あんたの友達は何をしているのね」

「友達じゃないよ、おばあちゃん」

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